エンジニアの能力を活かし、組織に貢献する「スタッフエンジニア」というキャリア
「風呂グラマー」の愛称で呼ばれ、トレタやミイルを始めとする数々のB2C/B2Bプロダクト開発に携わってきた増井氏。監修・解説を務めた2023年発行の『スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ』では、「スタッフエンジニア」について触れている。「スタッフエンジニア」とは多くのエンジニアにとって耳慣れない言葉だが、経験を重ねてきたエンジニアが考えるべきキャリアパスの1つだ。
現在、エンジニアのキャリアとして多いのは「エンジニアリングマネージャー」や「VPoE」などのマネジメント職だ。働きやすい職場づくり、エンジニアの評価や育成など、いわば"人"寄りのキャリアといえる。しかし、そこにもう1つ、エンジニアの能力を生かしながら、組織に広く貢献する"スタッフエンジニア"というキャリアがある。
増井氏は「30代でシニアと言われるまでは、自分の能力を"足し算"し、やったことそのままが成果となる。しかし、それ以降はエンジニアリングマネージャーなどのように"掛け算"する能力が求められる。つまり、メンバーが働きやすい環境づくりや他の部署とのスムーズな連携など、会社全体の生産性を高めることが必要だ」と語る。そうなると、やはりピープルマネジメントは重要なのは明らかだが、スタッフエンジニアは何に"掛け算"するのだろうか。
そもそもスタッフエンジニアの"スタッフ"は「一般社員」のイメージを持たれがちだが、軍事用語で「参謀」という意味だ。指揮官の右腕として作戦を立て、その実行の補佐をする役割。つまり、スタッフエンジニアは「参謀となるエンジニア」のことを指す。そして、次の4タイプに分類できる。
1. テックリード(Tech Lead)
プロジェクトの技術リーダーとして、言語やチームの技術的ビジョンを決める。エンジニアリングマネージャーやプロダクトマネージャーと共にロードマップの策定や技術選定に携わり、難しい初期コードなどを書く。スプリントの中でも活動し、スタンドアップミーティングやプランニングにも参加するスタッフエンジニアとしてのテックリードは、もう少し見る範囲が広く、チームを見るよりも、CTOやCDOなどの上級職の人を見てサポートを行う。
2. アーキテクト(Architect)
システム開発の業務分析や設計など、上流工程に関わり、ビジネスの視点からシステムを設計する役割を担う。インフラ、データベース、APIなど複数のセクションにまたがる複雑で変化し続ける設計を維持する。単なる技術選定などではなく、ビジネスや顧客ニーズ、会社のビジョンなどに照らし合わせ、技術負債の解消やその実行のタイミングなどを決定する。
3. ソルバー(Solver)
問題解決に特化した役割。たとえば、情報漏洩や技術的な炎上でプロジェクトが停滞しているなどの難しい問題が生じている時に、上から命じられて解決する。日本では「火消し」とも言われる。
4. 右腕(Right-hand)
「CTO室」のような名称で存在し、CTOなどの上位職の名前を代理して匿名プロジェクトなどを実行する。リーダーと共に会議に出席して、問題を巻き取り解決するなど、組織構造の「火消し」としての役割を負うことがある。