三者三様! CTOの意思決定で大事なこと
──まずは「技術的な意思決定をどう進めているか」についてですが、最近大きな意思決定をした方はいますか? BuySellさんは買収の話が出ていましたね。
今村:はい。同じリユース業の企業を買収させていただきました。M&Aをするときには、対象企業の技術スタックやエンジニアの体制、開発受託の規模感や各種指数などにきちんと立ち入ります。技術の意思決定者として、M&Aの後にどうグロースさせていくかはある程度事前に予測を立てますね。
小橋:どういうところを重点的に見ますか?
今村:一番は「人」です。誰が開発を主導しているのか、自分たちで意思を持って開発しているのかは結構見ています。
小橋:意思決定という観点でいくと、「この会社ヤバそうだから、買わない方がいいぞ」とNGを出すのはどういう時ですか?
今村:買収する場合、すごく古いものは変えたり、外注から内製化の方向に舵を切ったりと、きちんと手を入れるので……技術アセットだけで、安易に判断することはないですね。何か課題を抱えていたとしても、エンジニアが介在することで改善する事も多いので。
──エムスリーさんもM&Aをたくさんされていると思いますが、いかがですか?
山崎:今日のテーマに沿うところですと、「事業で成果を出すための意思決定とはどうあるべきか」が1つのポイントなのかなと。ここは組織や会社のフェーズ、プロダクトの持ち方によって結構変わるんじゃないかなと思っています。
エムスリーのようにマルチプロダクトを展開していると、最適な技術はチームによって違うんですよ。つまり、事業で成果を出すためには、クラウド環境やデプロイするための仕組みといった「事業を伸ばすために最も適した技術」や「生産性を最大化する仕組み」を、現場レベルで選んでもらうことが重要なんですね。
現場の状況を理解しているのはCTOではなく、各プロダクトチームです。そのため私はCTOとして「技術的な意思決定を『しない』」ことを心がけています。
一方で、私がCTOとして行う意思決定は、「全体的にクラウド化していきましょう」みたいに、各チームでの意思決定が難しいものを代わりに決定するというものです。「細かな意思決定には立ち入らない」っていうのを、私たちの組織では徹底してますね。
──お隣で小橋さんがうなずいてますね。キャディさんも技術選定はそういう感じですか?
小橋:技術選定は私もほぼやったことがないです。ただ、ここは山崎さんが仰ったとおりフェーズによって違うと思いますけれど。
あと、私自身はソフトウェア系じゃなくて、ハード側の人間なんで、「私に言われても……」という場合もあって(笑)。本当にいろんな方に助けられながら意思決定をしてきたので、やっぱり現場で意思決定がなされるっていう風土は最初からあったのかなと思います。
興味深いのが、組織が大きくなってくるとトップダウンで決まるルールも増えてくる一方で、現場が「ここまでなら自由にできる」と線引きできるようになる現象です。ここはものすごくCTOのバランス能力を試される場面ですね。
技術から離れたところで言うと、我々は事業にコミットして事業の今後の成果に責任を持つという職責を担っています。なので、「短期的に見ると最適ではないが、長期的に見ると最適な方向に針路を取る」という意思決定も職務だと思いますね。
今村:意思決定に際してはいろんな背景がありますよね。その背景も、自分の視座からは100を伝えているつもりでも、メンバーから見ると10ぐらいしか伝わってないこともよくあります。そのため、決定した事実だけを伝えるのではなく、決定の経緯や背景といった「Why」の部分を丁寧に説明したり、文章に残したりするように意識しています。