プレイヤーを続けるメリット・デメリット、マネージャーに進む期待と不安
ここからはスマレジの生存戦略をそのまま体現しているメンバーの話を聞いてみよう。同社CTO室の上野裕貴氏はプレイヤーとマネジメントの間で揺れ動きながらキャリアを選択してきた人物だ。2022年2月にスマレジの福岡開発拠点の第一号メンバーとして入社し、普段は福岡でWeb系開発に従事している。
まずは上野氏のこれまでのキャリアを振り返る。最初に入社したのは受託開発会社で、Web開発(PHPやRuby on Rails)やモバイル開発(iOSやAndroid)のプレイヤーとして働きはじめた。次に自社開発の会社に転職し、途中でマネージャーを打診された。
なぜ自分がマネージャーに選ばれた? 技術に疎くなる不安もあった
打診というよりは突然の指名で上野氏は困惑した。嬉しさもあるものの、「自分に向いていない。もっと優秀な人がいるのになぜ自分が?」という受けいれがたさがあり、不安もわき上がってきた。
プレイヤーを続ける選択をした場合、好きな技術や開発に携わり続けることができるのがメリットだ。一方、世の中には自分よりも強いプレイヤーがいるのに「これからも通用するだろうか」「エンジニアだけではキャリアの幅や可能性を閉じてしまわないだろうか」という不安もあった。
逆にマネージャーになる選択をした場合、業務の幅や裁量が広がり、自分の成長や収入アップが期待できる。一方「そもそもコミュニケーションが苦手なのにできるだろうか」「そのうち技術に疎くなり、無能なマネージャーになるのではないか」「この会社でしか通用しない政治屋になってしまわないか」といった不安が次々とわいてきた。
エンジニアなら経験が実績となり転職時に有利に働きそうだが、マネージャーではどうか。チームをとりまとめた経験は「ポータブルスキルにならないのでは」と上野氏は疑念を抱いていた。
ジレンマを抱えつつも、最終的にはマネージャー打診を受けいれることにした。「誰にでも訪れるチャンスではないなか、自分が選ばれた。やったことがないのに向いていないと決めつけるのはカッコ悪い。とりあえずやってみよう」と一念発起したのだ。
マネージャーはやってみると奥が深い──そして新たな不安も生じる
実際にマネージャーとしてやったのは、アサインやリソース調整、進捗(しんちょく)管理、目標設定や評価、1on1、採用、制度設計などだ。経験してみると「専門性が高く、奥深い。学ぶことがたくさんある」という発見があった。
チームで働く楽しさも高まった。上野氏は「プレイヤー時代は不機嫌になると強い言い方をするなど不器用なところもありましたが、まとめる立場になるとそういうことがすごく見えてきて、チームのために振る舞うことを意識できるようになりました。またそれまでは一人で抱え込みがちでしたが、素直に『自分は万能ではない』と認めて周囲を頼れるようになるなど、肩の力が抜けました」と自身の成長と心境の変化を振り返る。
とはいえ良いことだけではなかった。やはり心配していたように現場や技術に疎くなってしまった。プレイヤーの世界同様にマネージャーの世界にも果てしなく上がいることを思い知らされた。加えて「マネージャー経験は本当に自分の血となり肉となっているのか? ただ在籍期間や人間関係の蓄積でチームを動かせているだけで、他社では再現性はないのでは」という疑念もわき上がってきた。そうしたなか転職を決断した。