「重要なのは意思決定の速度」──生成AIによって変化するマネジメントのボトルネック
Developers Summit 2025 Summer 2日目の朝一番に行われた本セッションでは、「AI時代のマネジメント」をテーマに、仕事のスピードがどこで決まるのかが議論された。AIエージェントによる全自動化という理想が独り歩きする中、あえてマネジメントに焦点を当て、明日から伸ばすべきスキルを見定めることをゴールに据えた形だ。
最初のトークテーマは「仕事のスピードを上げるためのマネジメントスキル」。口火を切ったのは、株式会社エクスプラザで生成AIエバンジェリスト兼リードAIプロデューサーを務める宮田大睿氏だ。複数企業で生成AI開発支援や組織のAIネイティブ化を手がけてきた宮田氏は、仕事のスピードを左右する要因について「開発プロセスそのものよりも、エンジニアとのコミュニケーションや意思決定の質・速度がカギ」と語る。さらにその一環として、生成AIをスクラムマスターやプロジェクトマネージャーのような役割で活用し、チームマネジメント自体を高速化する取り組みを実践しているという。
具体例として紹介されたのが、Cursorを活用したプロジェクト進行管理だ。宮田氏のチームでは、技術ドキュメントやスプリントレビュー、各種プロジェクト資料をソースコードと同一のリポジトリで管理している。ドキュメントとコードを分離せず、同一の文脈に置くことで、生成AIがコードとビジネス文書を横断的に理解できる状態を作り出しているのだ。
この環境では、従来NotionやGoogleドキュメントなどに分散していた情報が一元化されているため、LLMがスプリントプランニングやレビュー、進捗整理までを担うことができる。「2週間分の作業内容をAIが解析し、ロードマップ案を作成したうえで、途中の変更やスリップも反映する短期開発サイクルを回している」と、宮田氏はその運用を説明した。
このような取り組みを続けた結果、これまでプロジェクトマネージャーがレポート作成や形式的な資料づくりに費やしていた時間を大幅に削減。エンジニア側も進捗報告や相談に割く時間が減り、ミーティング回数も減少した。宮田氏は、「マネジメントが楽になっただけでなく、チーム全体の生産性が向上した」と成果を強調する。
続いて、開発プロセス全体の視点から語り始めたのは株式会社ホロラボの執行役員である「アジャイルモンスター」こと及部敬雄氏だ。及部氏によると、生成AIはすでに実装領域に入り、開発時間を大幅に圧縮。その結果、従来のスプリント構造そのものが短縮される現象が起きているという。
さらに及部氏は、生成AIによって一人当たりの生産性が高まることで少人数チームが増加し、複数のプロジェクトやプロセスを並行して回す「マルチプロセス型」の働き方が広がりつつあるとも述べた。この開発スタイルにおいて、ボトルネックは技術ではなく、マネジメントそのものに生じる。「マネジメントがボトルネックになることを防ぐためには、開発プロセス全体を、生成AIの活用を前提としたものへと作り替えなければならない」と述べ、先に紹介された宮田氏の取り組みはまさにその象徴であると位置づけた。
この流れを受け、『エンジニアリング組織論への招待』の著者として知られる広木大地氏は、自身の経験を交えながら「重要なのは意思決定の速度だ」と語る。タスクを消化する速さではなく、不確実性を減らす意思決定をどれだけ迅速に行えるかが、仕事全体のスピードを左右する時代になっているという。ここまでの議論を踏まえて広木氏は、「顧客価値に関わる部分の仕事量を高めるためにも、従来の常識を再定義すべきフェーズに来ている」と指摘した。
