生成AI時代のSREが捨てるべき思考、持つべき姿勢
一人目SREとしての実践を語った中川氏は、合わせて「避けるべきアンチパターン」にも言及した。
1つ目は、「SREの専門家として振る舞いすぎること」。中川氏自身、これまでの経験から専門領域への理解には自信があったと語る。しかし、専門性を前面に押し出し、「それは間違っている」「こちらが正しい」と正論を突きつけるだけでは、チームの信頼は得られない。重要なのは正しさを主張することではなく、「中川さんが入ってきて、きちんとやってくれている。だからSREの取り組みを信じてみよう」と思ってもらえる状況を作ることだ。そのため中川氏は、アウトプットではなくアウトカム、すなわち成果にこだわる姿勢を重視したと説明する。
2つ目のアンチパターンは、いわゆる「ビッグバン型」の施策導入である。エラーバジェットの本格導入やオブザーバビリティ基盤の一斉整備は、確かに重要な取り組みだ。しかし、一人目SREが着任したばかりの段階では、「SREとは何をする人なのか」が周囲に十分理解されていないケースも多い。そうした状況で大きな改革を一気に進めようとしても、合意形成が追いつかず、結果として何も進まない可能性が高いのだ。
3つ目は、個別最適化に陥ること。「SREだからSREの仕事しかしない」「インフラエンジニアだからインフラだけを見る」といった姿勢は、結果として新たな壁を生む。中川氏は、壁を越えるどころか壁を作ってしまう行為は避けるべきだと強調する。SREというロールに閉じこもらず、事業やチーム全体を見渡す視点を持つことが重要だという。
こうしたアンチパターンを踏まえたうえで、中川氏は最後に、個人として、そしてLayerXとして、生成AIとどう向き合うべきかに言及した。複数のプロジェクトが並行して進む中でデリバリーの安定化を図りつつ、SREの価値を高めていくうえで、生成AIは今後ますます重要な存在になるという。
中川氏は、生成AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、「良きバディ」として日常的に使い続ける姿勢を重視している。ブログ執筆を生成AIに任せたり、Terraformのコード生成に活用したりと、業務の中で積極的にAIを取り入れているが、現時点ではまだ体系立った成功事例として語れる段階ではない。それでも「やることはやっている」とし、試行錯誤を止めない姿勢こそが重要だと語った。
その前提として中川氏が強調したのが、「アンラーニング」の重要性である。これまでの知識や成功体験に固執せず、一度手放し、学び直し、手を動かしながら生成AIを使い続けること。そしてアウトプットの量ではなく、LayerXの事業やチームにどんなアウトカムをもたらしたかを問い続けることが、再現性のある成長につながるという。
セッションを通じて浮かび上がったのは、生成AI時代であっても、信頼を積み上げ、立場や役割の壁を越え続ける姿勢が、SREの事業貢献の土台であるということだ。変化の激しい技術の先にあっても、価値を生み出す起点は、常に人と組織の中にある。
