一人目SREが信頼を勝ち取るまでにやったこと
ここで中川氏は、自身がLayerXに入社してから約20日間、どのように行動してきたかを具体的に振り返った。Ai Workforce事業部は、開発に関わるエンジニアが10名強という小規模なチームで、SRE専任として採用されたのは中川氏ただ一人。まさに「一人目SRE」として、ゼロから事業貢献の形を作っていくフェーズだった。
中川氏は、入社初日から20日目までを大きく三つの期間に分け、それぞれでスタンスを意図的に変えてきたと明かす。入社直後は「チームを知る」ことに徹し、10日目以降は「チームに入る」こと、そして20日目以降は「SREチームを作る」ことを意識したというのだ。
まずDay1からのフェーズでは、一般的なオンボーディングに加え、事業部内での関係構築を最優先した。開発メンバーに限らず、事業部門や他のステークホルダーとも積極的に会話し、自身がどのような役割を担う存在なのかを知ってもらう。言い換えれば、「顔と名前を覚えてもらう」ことに注力したという。
象徴的なのが、入社2日目に事業部の四半期キックオフに参加したエピソードだ。入社から間もないのだから、当然、事前知識は十分ではない。それでも中川氏は積極的に議論に加わり、仮説ベースで意見を投げながら理解を深めていった。これにより事業理解が進んだと同時に、「SREとは何をする人なのか」を周囲に認識してもらう機会にもなったという。
10日目以降は新人気分を終え、「とにかく手を動かす」フェーズへと移行した。インフラやシステム構成のキャッチアップを進めながら、Slackやドキュメントを読み込み、漏れていそうなタスクを自ら拾っていく。引き継ぎを待つのではなく、「やっていいですか」と手を挙げて動く姿勢を貫いた。新規インフラ構築などのプロジェクトワークにも積極的に関わり、SREとしての存在感を実務で示していった。
こうしたプロアクティブな行動は、LayerXの「NoでなければGo」という文化とも相性が良かった。中川氏自身、これまでの経験から「待つよりも自ら動いた方が成果につながる」という成功体験を持っていたといい、「迷いはなかった」と話す。
並行して取り組んだのが、社内横断のSREギルドづくりである。LayerXでは事業ごとにSREチームが配置される形で、中央集権的なSRE組織は存在しない。そこで中川氏は、横断的にエンジニアが集まるSlackチャンネルで声をかけ、ランチをきっかけに他事業のSREやDevOps担当者とのつながりを築いていった。この活動は後に、社内イベント「LayerX SRE & Cloud Native Night!」の開催へと発展する。
これらを経て20日目以降は、SRE業務の属人化を防ぐための仕組みづくりに着手。従来、特定のテックリードに直接依頼されていたSRE関連タスクを、Slackワークフローを用いて「SREというロール」に集約する形へと整理した。短時間で完了する軽微な作業だったが、「役割と人を切り離す」アクションは、後に大きな効果を生む「投資」となった。
さらに、オブザーバビリティといった重要施策にもスモールスタートで取り組んだ。大規模な導入を一気に進めるのではなく、議論をSlack上で可視化し、生成AIを活用してデザインドキュメントをまとめるなど、小さな合意形成を積み重ねた。その結果、APM導入やSLO/SLI実装へと施策が具体化していく。
これらの取り組みを振り返り、中川氏は「信頼されるSREの起点を作ること」と「スモールスタートで壁を越えること」が特に重要だったとまとめる。エンジニアとSRE、事業部門と開発、組織の違いといった壁を越えるには、相手の立場を理解し、丁寧に関係を築く姿勢が欠かせない。「技術以前に、信頼を積み上げる行動こそが、一人目SREにとって最大の事業貢献だ」というのが、中川氏が得た学びだった。
