AIエンジニアだから成しえた民意を可視化する3つの方法
安野氏が実践した具体的な手法は、「聴く」「磨く」「伝える」という3つのステップを高速に回すことだ。
第1の「聴く」ステップでは、膨大な有権者の声を可視化するために「Talk to the City」という技術を活用した。安野氏は具体例として、石丸伸二候補との討論番組に寄せられたYouTubeコメントの分析事例を紹介した。1万件以上のコメントをベクトル化し、次元削減を行って可視化することで、膨大な意見の全体像を把握できるようにしたのである。その後、2次元に圧縮してマッピングし、クラスタリングを行うことで「若者の政治参加」や「政策への評価」といった民意の全体像を浮き彫りにした。これは、人力では不可能な規模の意見集約をAIが可能にした例である。
第2の「磨く」ステップでは、集まった意見をもとに政策をブラッシュアップするプロセスが設計された。ここで安野氏が採用したのは、開発者には馴染み深い「GitHub」である。マニフェストをMarkdown形式で記述してリポジトリで管理し、誰でもプルリクエストを送れるようにしたのだ。また、マージされた変更は即座に公式Webサイトに反映される仕組みを構築した。選挙期間の15日間だけで104個のプルリクエストがあり、そのうち85個がマージされたという。これは、マニフェストが静的な文書ではなく、動的にバージョンアップされるプロダクトとして扱われたことを示している。
しかし、GitHubを使える有権者は極めて限られている。そこで、2025年の参院選ではさらに進化させ、非エンジニアでも参加できるよう「AIによるインタビュー」形式を導入した。有権者がAIと対話すると、その内容をAIが解析し、自動的にプルリクエストを作成する仕組みを構築したのである。これにより、このシステムの導入により、65日間で約1万件の提案が寄せられ、346個が対応されるという、桁違いの市民参加が実現した。
技術を用いて「聴く」と「磨く」のプロセスを再構築することで、専門的な知識を持たない一般の有権者でも、政策形成のプロセスに直接的に関与できる道が開かれたのである。
第3の「伝える」ステップにおいても、生成AIの力が遺憾なく発揮された。頻繁にアップデートされるマニフェストの内容を正確に有権者に伝えるため、安野氏は「AIあんの」というAIアバターを開発した。RAG(検索拡張生成)技術を用いてマニフェストを学習させたAIが、有権者の個別の質問に対し、文脈を汲み取って回答する。このAIアバターは、都知事選で約1万件、参院選に向けた活動では約2万5000件もの質問に回答した。
さらに重要な点は、ユーザーとAIアバターの対話ログがデータとして蓄積されることだ。安野氏は「AIが間接的に有権者と私の間のコミュニケーションを成立させてくれた」と語る。ログデータを解析することで、有権者がどのような疑問を持ち、どの政策に反対しているのかを把握し、次の政策改善へとフィードバックさせることができる。AIが人間と人間の間に入ることで、これまで成立しなかった規模と深度でのコミュニケーションが可能になったのである。
