生成AIが叶えた効率化と、奪われた「コードを書くプロセス」
NTTテクノクロスのエンジニアである渡邉洋平(watany)氏は、AWS AmbassadorやJAWS-UG 東京の運営など、クラウド分野で幅広く活動している。
渡邉氏が2025年3月に公開し、約20万ビューを記録したスライド「エンジニアに許された特別な時間の終わり」がある。今回のセッションでは、同スライドの内容を2025年末の最新状況に基づき、大幅にアップデートして共有した。
セッションの冒頭、渡邉氏は小説『猿の手』を引用し、現代のエンジニアの境遇を象徴的に示した。猿の手は3つの願いを叶えてくれるが、必ず恐ろしい代償を伴うという物語だ。同氏は、この寓話になぞらえ「生産性を上げたい」というエンジニアの願いが「自律的なコーディングAI」を実現させた一方で、その代償として、エンジニアが愛してきた「コードを書くプロセス」そのものが奪われる危惧を説いた。
渡邉氏は、2024年までのLLM活用を、主に人間が設計を伝え、AIが出力したコードを手元で修正する「チャット形式」のパラダイムであったと分析する。しかし、2025年の現状は「コーディングエージェント」へと完全に移行しているという。
Cline(旧Claude Dev)やClaude Code、Windsurf、Cursorといったエージェントツールは、もはや単なる補完ツールではない。これらのツールは、ローカル環境やIDEに直接アクセスし、ファイルを読み、コードを書き、テストコマンドを実行する。さらにその結果を受けて、自律的に修正を繰り返す。AIは、テキストを生成する役割を超え、計画、振り返り、ツール実行までをこなす「自律したソフトウェアエンジニア」として振る舞い始めている。
つまり、かつての「副操縦士(Copilot)」という言葉は、今や「操縦士(Pilot)」へと置き換わりつつあるのだ。
渡邉氏はこの変化を、自動車の「自動運転レベル」に例えて解説した。レベル1から2までは運転支援に過ぎないが、レベル3以上になると運転の主体はシステムへと移る。これまでのAI支援チャットや補完機能はあくまで「支援」であった。しかしエージェントの台頭は、エンジニアが「運転席(コードを書く場所)」をAIに譲り渡し、助手席に移ることを意味している。
AIが論理的に解ける部分をすべて代行する世界になったとき、人間には「論理では解けない最後の運試し」と「結果に対する責任」だけが残される。渡邉氏は「楽しいかと言われたら全然楽しくない」と本音を漏らす。エンジニアリングの醍醐味であった試行錯誤の時間、すなわち「特別な時間」が、終わりを迎えつつあるのが現状だ。
