転職の判断軸は「環境」「立ち位置」「代表作」
新卒3年目のエンジニアから投げかけられたのは、より切実で構造的な問いだった。自社プロダクトの癖や技術的負債も理解できるようになり、一定の解像度を持って開発に関われている。今の会社に残り、このプロダクトとともに成長すべきか。それとも環境を変え、複数の会社やプロダクトを経験することで視野を広げるべきなのか。将来的にはプロダクトマネジメントに関わりたいと考えているが、自社特化の知識を深めるべきか、汎用的なスキルを伸ばすべきかで迷っているという相談だ。
蜂須賀氏はまず、「今の会社でロールモデルを描けるか」「挑戦できる環境があるか」が重要な判断軸になると述べる。社内に目指したい存在がいるか、自分が望む役割に近づけるチャンスがあるか。それがあるなら、無理に離れる必要はないという見解だ。
ただし、その選択が一生を決めるわけではないとも強調する。キャリアはフェーズごとに変化する。プロダクトマネジメントを志していても、実際に挑戦する中でチームマネジメントに魅力を感じる可能性もある。重要なのは「いまやりたいことを試せる環境かどうか」だ。
一方で、ばんくし氏は「外的要因に左右されすぎていないか」と問いを投げかける。個人の志向や理想だけでなく、市場や資本の動きを見るべきだという立場だ。成長意欲があり、より大きな挑戦を望むのであれば、チームやプロダクトに投資が集まっているかを見極める必要がある。いくら社内で自由に動けても、プロダクト自体が市場で勝てなければ、やがて投資は止まり、挑戦の機会も減っていくためだ。
実体験として、ばんくし氏は自身がヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)で「Yahoo!オークション」に携わっていた際、競合のメルカリに急速に追い抜かれたときの現場の空気に言及した。
市場で劣勢に立たされると、組織の重心は「攻め」から「守り」へと移る。優秀な人材が流出し、チームの熱量も次第に下がっていく。「我々は資本主義や市場経済の中で生きている。だからこそ、自分が関わるプロダクトの立ち位置に納得できるかどうかが重要だ」という言葉は重い。技術力は環境の上に成り立つものであり、投資があってこそ自由度も高まるという現実を示している。
さらに蜂須賀氏は、相談者がプロダクトマネージャー志望である点に着目する。転職は思い立ったらすぐにすべきものではない。会社の規模を問わず「自分が責任を持ち、プロダクトマネージャーとしてやり切ったと言える代表作があるか」が重要だと語る。
裁量が得られる環境にいるなら、失敗を恐れずに1つの代表作を持つべきだ。その前に転職するのと、代表作を持ってから転職するのとでは、次に選べるステージが大きく変わるのだ。
今の会社に残るか、他社へ移るかという2択の裏には、環境、市場、成果という3つの観点がある。その構造を踏まえたうえで、自分は何を得たいのか、どこでやり切るのかを考えるべきだというのが、両者からのメッセージだった。
