「合理性が必ずしも正当性を意味しない」組織で私たちはどうするか?
本事例から得られる最も本質的な教訓は、「合理性が必ずしも正当性を意味しない」というビジネスの冷酷かつ普遍的な事実である。ITエンジニアやプロダクトマネージャーは、データや技術的優位性、経済合理性といった「論理的なコード」を重んじる傾向にある。しかし、組織を構成する個々の人間や部門は、それぞれ異なる「正当性のコード」を持っている。それは過去の成功体験であったり、部門内の力関係であったり、あるいは個人のプライドであったりする。
木下氏は、予算やKPI、社内外の評価といったものはすべて「正当性を配分する装置」として機能していると指摘する。DXやAI導入といった変革は、既存の正当性配分システムを破壊する行為に他ならない。したがって、抵抗や反発が起きるのは当然の現象である。変化に伴う「亀裂と危機」を恐れず、相手が何を「神聖な井戸」として守ろうとしているのかを見極める洞察力が、これからのリーダーには不可欠である。
非合理的な感情や組織の慣習を「くだらない」と切り捨てるのは容易い。しかし、本気で変革を成し遂げようとするならば、人間社会の非合理性を前提とし、自らもその「社会劇」の登場人物として役を演じ切る覚悟が求められる。相手のコードを理解し、新しいテクノロジーが既存の価値観を補完・拡張するものであるというストーリーを再構築する「翻訳力」と「調停力」こそが、プロジェクトを成功に導く最大の鍵となるのだ。
泥臭く、人間的で、面倒くさい合意形成のプロセスこそ最も代替不可能なスキル
明治エコシステムは現在も急速な拡大を続けており、今後は蓄積された膨大なデータを活用したさらなるパーソナライズ体験の提供や、ブランドの垣根を越えた新たなビジネスモデルの創出が期待されている。しかし、どれほど技術が進化し、AIが高度な分析を瞬時に行うようになっても、最終的な意思決定を下し、組織を動かすのは人間である。
木下氏は講演の終盤で次のように語る。「人間は面倒くさい。ただ、面倒くさいからこそ人間に向き合う価値が高まっていく。面倒くさくないことはAIがやってしまうので、我々に残されるのは面倒くさいことしかない」
異なる価値観を持つステークホルダーの間に立ち、対立を恐れずに新しい秩序を作り上げていく。この泥臭く、人間的で、そして面倒くさい合意形成のプロセスこそが、今後のプロダクトマネージャーやITリーダーに求められる最も代替不可能なスキルである。技術の波に翻弄されるのではなく、人間の複雑さを愛し、したたかに劇を演じることで、真の変革を推し進めていってほしい。
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