経験豊かなエンジニアこそ、AIをうまく使える理由とは
「AIには敵わない」「時間がない」「今さら始めても遅い」──40代のエンジニアなら、一度は頭をよぎる「あるある」な言い訳だ。しかし森松氏は、これらを「技術から逃げる言い訳」であると批判する。また「マネジメントへ専念する」ということについては、定型的な管理業務こそAIが最も得意とする領域であると指摘し、「今優先してAIに触れておかなければ、1年後の自分はもっと居場所がなくなっている」と、危機感を同時に突きつける。
同氏がたどり着いた結論はシンプルだ。「経験の活かし方が変わっただけ」なのだ。経験を積んできたベテランエンジニアほど、AIという強力な新人を使いこなすための「問いの質」が高い。たとえば、システムでエラーが発生した際、若手は「どう直せばいい?」と問う。だが、経験者は「なぜこのエラーが起きる設計になっているのか?」と構造を疑う。ログイン機能を作る際も、若手は実装方法を聞くが、経験者は「ユーザーが離脱しない認証体験とは何か?」を問う。目的を「作ること」から「価値の設計」へと昇華させる力こそが、AI時代におけるベテランの介在価値そのものである。
森松氏は、経験値が問いの質を変える理由を4つ挙げる。それは「結果の予測ができる」「見立てを持てる」「先回りができる」「全体を俯瞰できる」こと。AIという、知識は豊富だが判断力のない「新人」に対し、的確なプロンプトを投げて能力を引き出す「マネージャー」の役割を、エンジニア自身が担わなければならないのだ。
失敗体験・顧客理解・勘所が「最強の指示書」に変わる!
では、具体的に「経験」をどのようにAIへ流し込むのか。森松氏は3つの組み合わせを提唱する。
1つ目は「失敗経験とAI」。過去の失敗をAIに伝えると、同じ轍を踏まないためのリスク予測が得られる。失敗は、AI時代において輝く資産となるのだ。2つ目は「顧客理解とAI」。「この業界の顧客はこう考える」という現場の暗黙知をAIに与えることで、本質的な要件定義が可能になる。3つ目は「技術の勘所とAI」。ベテランが持つ「ここはハマりやすい」という直感をレビューに活かし、AIに重点的な検証箇所を指示することで、効率的に品質を担保できる。
これからの開発スタイルは、従来の「直列・完成品・失敗できない・全行程を人間が担う」というモデルから、AI活用前提の「反復・プロトタイプ・失敗許容・人間は判断と責任を担う」というモデルへと激変する。AIは生成コストが安いため、何度でも作り直せる。だからこそ、完璧を目指すより先に、まず形にして検証する。森松氏は、この「反復」のループを回す司令塔として、自らの役割を再定義した。
実際、森松氏はこの1年間、設計書の生成やWebサイトの構築を「プロンプトによる指示」だけで行ってきた。100回から200回の対話を通じてプロダクトを完成させる中で見えてきたのは、エンジニアの仕事の本質が「コードを書くこと」から「対話を通じて意思決定すること」へ移り変わったという現実である。そしてそのプロセスでは、人間を管理するのと同じ「ある手法」が劇的な効果を発揮した。

