実装の時間は終わっても、エンジニアリングは終わらない
セッションの終盤、渡邉氏はt-wada氏が提唱した「振り子と螺旋」の概念を用い、エンジニアリングの未来を展望した。技術のトレンドは振り子のように行き来しているように見えるが、実際には以前の知見を継承し、ベクトルを持って螺旋状に進化している。
現在、コーディングエージェントを使いこなすためのベストプラクティスとして語られている「プレーンテキストでの管理」「Unix哲学の継承」「CI(継続的インテグレーション)による即座のフィードバック」などは、すべてエンジニアが過去数十年にわたり積み上げてきた技術である。
つまり、エージェントを動かすためのハーネスは、人間のエンジニアリングの知見からインスピレーションを得て作られているのだ。渡邉氏は「結局、コーディングエージェントのベストプラクティスは、これまでの”エンジニアに許された特別な時間”の上で成り立っている」と語る。
よって、コーディングの主役がAIに移ったとしても、これまでのエンジニアリングが無駄になることはない。むしろ、その知見を積み上げた人こそが、エージェントの能力を最大限に引き出せる。
技術が過去を否定して消え去るのではなく、知見を土台として積み上げながら未知の領域へと登り続ける「螺旋」の構造において、エンジニアは経験や立ち位置に応じた独自の役割を担うことになる。渡邉氏は、若手には「最先端技術への高い吸収力」があり、シニアには「過去の運動との差分を理解し、適切なブレーキを踏める」という強みがあると説いた。
「手を動かして運転する(実装する)特別な時間」は、振り子のように元の形では戻ってこないだろう。開発速度は上がり、構造も変わり、以前と同じようにコードを1行ずつ書く生活は失われるかもしれない。しかし、螺旋状に進化した先には、AIと共に新しい価値を創造する、また別の「特別な時間」が待っているはずだ。
「コードを書かなくなるのが嫌だ」と悲観するのではなく、今この時代の螺旋と向き合うこと。AIエージェントという強大な加速装置を、エンジニアリングの知見というブレーキで制御し、次の愛着や喜びを見出すこと。それこそが、これからのエンジニアが歩むべき道である。
渡邉氏は「螺旋が動くのであれば、また次の愛着や特別な時間も見つかるはず」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。
