新製品が発売されるたびに大きな話題を集める「iPhone」の人気に加え、各キャリアはAndroid OSを搭載したスマートフォンを大々的にラインアップしており、ユーザー数はかつてのPCにおけるインターネット利用者の増加スピードを凌駕する勢いで増えつつある。ネット広告の市場において、スマートフォン向けサービスの動向を知り、それらをうまく活用していくことは、大きなビジネスチャンスにつながる状況となっている。
PCネット広告の世界で端を発し、スマートフォン向けネット広告の世界でも、現在注目を集めている技術の一つに「RTB(Real Time Bidding)」がある。RTBとは、読んで字のごとく、ネット広告枠への「リアルタイム入札」を実現するための仕組みである。なぜ、この仕組みが現在注目を集めているのかについて見てみよう。
eCPMの最大化に「RTB」が効果的なわけ
シンプルに表現すれば、ネット広告のビジネスモデルは、メディアなどを運営しているサイトが販売している広告枠を、広告を出したい企業が買い取って、そこに広告を表示することで成立する。広告媒体となるサイトが増加するのに伴い、ネット広告を出したいという企業も増加しているため、必然的にその間には仲介をするシステムが発生してきた。複数の広告媒体となるWebサイトを集約して、広告受注を一括で引き受ける「アドネットワーク」は、その代表的なものだ。
広告媒体となるサイトにとっては、複数の広告主からの受注をアドネットワークの事業者に一括で任せられる点がメリットになる。また、広告主にとっては、ネットワークに参加している幅広い媒体への広告配信が行われるため、リーチ率を高められるというメリットがある。現在、スマートフォン広告の分野において主流になっているのも、この仕組みだ。
一方、日本のスマートフォン広告の分野でも活用が始まったRTBでは、広告枠を提供する媒体側が、1インプレッションに対してリアルタイムに入札を行い、最も高い入札額を提示した広告主に対して、その枠を販売することができる。いわゆる「リアルタイムオークション」の仕組みをスマートフォン広告に取り入れることを可能にするものだ。
広告主側にとっては、オーディエンスターゲティング(注1)などと組み合わせて利用することで、最も訴求したいターゲットに向けた広告配信が可能となり、費用に対する広告効果を高められるというメリットがある。
一方の媒体側にとって、RTBは広告枠全体から得られる収益(eCPM;注2)の最大化を目指すにあたって効果的な仕組みとなる。事業者が提供するRTBシステムには、落札の最低価格を設定できる「フロアプライス」と呼ばれる機能がある。例えば、RTBでは、アドネットワークから得られる1インプレッションあたりの収益よりも高い価格を、フロアプライスとして設定しておき、落札されなかった分のインプレッションを、純広告およびアドネットワーク用として配信し、フィルレート(広告表示率)を担保するといった運用も考えられる。
特に大量のインプレッション在庫を持つメディアであれば、RTB、純広告、アドネットワークといった複数の仕組みをポートフォリオ化してうまく管理することで、自社サイトのeCPMを効果的に向上させていくことが可能なのだ。
RTBは、すでにPC向けのネット広告配信ではスタンダードな存在になっている。スマートフォン広告の分野においても、米国では徐々に主流となりつつある。また、スマートフォン広告の分野では、Webサイトだけでなく、ユーザーがダウンロードして利用する「アプリ」も広告配信の対象となる。広告によるメディアやアプリのマネタイズを考えるにあたって、日本においてもRTBが注目を集めている理由はこういった部分にある。
行動履歴をもとに顧客の興味関心にあわせて広告を配信する手法。
広告1000回表示あたりの収益額。
高度なRTBを手軽に実現できる「AdStir RTB Exchange」
すでにスマートフォンRTB広告に対応したプラットフォーム事業者は存在したが、2012年8月、国内では初めてRTBの利用を容易に実現させるスマートフォン向けRTBエクスチェンジサービスがスタートした。モーションビートが提供する「AdStir RTB Exchange」である。
AdStir RTB Exchangeでは、SSP(注3)事業者やアドネットワーク事業者、あるいはレップ事業者に対して、RTB配信、掲載可否、レポートといった、RTB広告の配信に必要なAPI群を提供する。各事業者は、これを利用することで、自社サービスの広告メニューとして、手軽にRTB広告の配信を行うことができるという。
AdStir RTB Exchangeでは、複数のスマートフォンDSP(注4)事業者との接続がすでに完了しており、SSP事業者やアドネットワーク事業者は、RTB広告を行うにあたって、個別にDSPとの接続を行う必要がない。さらに、今後も接続先となるDSP事業者は9月、10月で4社ほど増える予定で、今後ほとんどのDSP事業者との接続を行う予定だ。さらに海外DSP事業者との接続も視野に入れているという。
また、AdStir RTB Exchange機能の拡張として、学習型アルゴリズムエンジンと自然言語解析エンジンを用いたメディアカテゴライズ自動処理を支援するコンテキストマッチオプションも提供するとのことだ。これにより曖昧なメディアカテゴリ情報でなく精度の高いメディアカテゴリ情報をDSPに送ることで、ターゲティング精度が向上し高い入札単価を期待することも考えられる。
モーションビート、メディアプラットフォーム事業部事業部長の植雄平氏は「自社でRTBに対応しようとすればRTBエンジンの開発コストとしても数千万円が必要になる、また個別のDSPとの接続が必要になるが、1つのDSPとの接続であっても、少なくとも数か月はかかる。DSPとの接続コスト自体も大きく膨らむことになると考える。Adstir RTB Exchangeでは、すでに複数のDSPとの接続が完了しており、APIを利用することでRTBエンジン開発コストも削減しつつ自社の広告メニューとして即座にRTBが導入できる」と話す。
また、RTBの実現にあたっては、大量のリクエストを短時間に処理する「リアルタイム性」がカギとなるため、そのエンジンの開発にも高い技術が要求される。植氏は「RTB Exchangeのエンジンでは、高いリアルタイム性を確保するために、コードレベルで処理速度を高めるための実装を行っている。実際に接続しているDSPとSSPとの間で、リアルタイムのビッド処理に関して発生するズレは1%未満となっており、これはRTBエンジンの質が高いと考えてもらっていいと思う」と話す。さらに、取引の中で発生した大量のデータを分析に活用するためのバッチ処理や、インフラのスケーリングといった要素についても考慮されたエンジンになっているという。
AdStir RTB Exchangeを利用することによる最大のメリットは、構築にあたって、技術や下準備の面でハードルが高いRTBを、今すぐに使い始められる点だ。また、同サービスにはAPIではなく、タグスクリプトを使って、さらに手軽に利用できる「簡易版」も用意されている。この簡易版を提供する意図について、植氏は「まずはRTBを試してみて、その収益性の高さを実感してみてほしい」と話す。
「まず、タグによる簡易版でRTBを利用してもらうことができるが、本格的に自社サービスとして展開する場合にはAPIを利用したものへと発展させる形もある。API版ではネットワーク事業社やSSP事業者は自社のサービスに掲載可否機構やレポート情報も完全に組み込むことができる。メディアやアプリの広告配信をベースとしたマネタイズで収益を最大化するにあたっては、ぜひ活用してもらいたいサービスだ。フロアプライスの最適運用などを含めると更なる収益を各事業者は得ることができ、メディア事業者やアプリ事業者へ還元できると思う」(植氏)
同社では、AdStir RTB Exchangeの提供にあたり、成約率や収益を高めるための活用法の提案も行っているという。今後、日本のスマートフォン広告においても主流となるであろうRTBについて、早い段階で検討と活用をはじめておくことは、この市場にかかわるプレイヤーにとって、将来的なアドバンテージになるのではないだろうか。
次回は「AdStir RTB Exchange」を支える同社の技術力に迫ってみる予定だ。
Supply-Side Platformの略。オンライン広告を最適な形で配信するメディア(広告枠を提供する側)向けのツール。
Demand-Side Platformの略。オンライン広告を最適な形で出稿する広告主(広告枠を利用する側)向けのツール。