(編注:編集部都合で掲載が遅くなってしまいましたが、デブサミ2013の特別企画として実施された「公募レポーター」の記事を掲載させていただきます)
活躍するフィールドが異なる個性豊かなパネラー陣
本セッションの司会は、アマゾンデータサービスジャパン株式会社 技術統轄本部 本部長、玉川憲氏。パネラー陣には以下の3人が登壇しました。
- 株式会社NTTデータ経営研究所 パートナーコンサルティング事業部門長であり、書籍『ITと新社会デザインフォーラム』発売を今春に控える三谷慶一郎氏。
- はてな(取締役最高技術責任者)、GREEを経て現在はフリーのプログラマである伊藤直也氏。
- MOVIDA JAPAN株式会社代表取締役社長兼CEO、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社 代表取締役会長の孫泰蔵氏。
玉川氏が「この組み合わせは本邦初公開ではないだろうか。何が起こるか分からないけど、貴重な場を楽しんでいただければと思います」と述べるほど豪華な顔触れとなりました。
なお、本稿では参加パネラー陣のやり取りや雰囲気などを、できる限り詳細にレポートしてみました。その分ボリュームが少々多めになってしまいましたが、最後まで読んで頂けると幸いです。
エンタープライズのいままでとこれから(三谷氏)
次はパネラー御三方に、それぞれの視点からのお話をうかがうことに。
玉川氏曰く、「一つ一つの世界を見比べていくと、より自分のいる世界が分かるのではないか。改善すべき点についても、より高い視点で全体を眺めていくと、より分かりやすくなるのではないか。2軸…今いる自分と将来の自分、または自分がいる世界と他の世界。そこを見つめなおし、ディスカッションしていければと思います」とのことでした。
エンタープライズとIT
まずは『どエンタープライズ』(※冒頭自己紹介で玉川氏が命名)代表、三谷氏。
エンタープライズとITとの関わりについては、『省力化・自動化が中心』『対象はバックオフィス業務が主』『信頼性・安全性を含む高品質を重視』といった特徴を挙げ、これらの世界が今後も継続していくことは間違いないとしつつも、2つのグローバル化、すなわち
- グローバル企業への対応
- グローバルな開発リソースのマネジメント
についても必要だとし、これはこれで頑張っていかなければならない部分だと強調しました。
IT投資による生産性向上
また、日米のIT投資による生産性向上についても図を用いて解説。民間IT投資額がシュリンクしている・伸びていないのは、実はワールドワイドで見ても日本だけだといいます。
アメリカでは、1980年代にIT投資の効果があまり見られずに不要論が出ましたが、2000年代にはニューエコノミーの期待と共に驚異的な効果が現れました。対照的に、日本では1980年代にIT投資に対する効果がすごく出ていたのにもかかわらず、2000年代になるとそれが下がってしまいました。
三谷氏は、次のように分析します。
「理由としては"効果が上がる実感がない"というのが経営者視点からのメッセージ。日本は1980年代、省力化や自動化のIT活用がすごくうまく、そのレベルも非常に高かった。現場レベルでは大きな成果を挙げていた。一方で2000年以降はITの使い方が変わり、"付加価値向上"を目的としたIT投資が積極的に行われなくなり、『これ以上、ITは要らないんじゃないか?』という風潮になってしまった」
また、「これからは設計・開発・プロジェクトマネジメントといった諸々の要素の積み重ねの、さらに上に積み上がる形で『マーケティング』が求められる人材像となるだろう。『付加価値創出』を目的として、ITでしかできないことを行う。新しいサービスを作り出す。フロント業務を中心に、迅速性を重視し"Quick&Dirty"でユーザーと共に構想する『デザイン型人材』が必要となってくるだろう」と述べました。
最後は「新しいパラダイムへシフトしていくために、スタートアップやソーシャル、ゲームの世界との協調が今後は必要。ハーモナイズ(harmonize:融和)する、バウンダリ(境界)として閉じないということが重要なのではないか」とコメントし、発表を結びました。
その後、玉川氏から「なぜアメリカではできて、日本ではできなかったのか」という問いが投げ掛けられ、三谷氏は「多分にスキル的、文化的問題が絡んでいたのではないか。昔の日本企業は継続性を持って改善していた。一方アメリカでは総取替え的な組織作りをしていたので、その辺りが関係しているのではないか」と回答。
また続けて「このネタは非常に興味深いのですが、話し始めると1時間半位掛かってしまうので…」と名残惜しそうに質疑応答を締めていたのが印象的でした。
Webサービスの世界(伊藤氏)
Webサービスでは『2つのBtoC』がある。後者についてはバックエンドという概念があまりなく、フロントで提供しているものがすべて。また3文字英語がほとんど出てこない点を指摘しました。
- 既存のビジネスをITで提供するもの(EC、交通予約、物流、保険など。Amazonや楽天による)
- ITそのもので価値提供を行うもの(検索、SNSコミュニティ、ゲームなど。GoogleやFacebookによる)
1990年代~2000年代、Googleの台頭、Web2.0などを経たこれまでの展開を説明した上で、今は『ポストPC』の時代とし、データを見てももうすでにそういった時代に突入しているのだと分析。
「PCインターネットの時代はすでに終わり、儲かったのはGoogleだけ。そのGoogleが飲み込んだのは広告ビジネスの資本のみ。試しに数日後、例えばWebサービスを自作して後に収益化を考えようかとなった際、まずは「広告を出すか」となる。その時点で(Google支配下から)抜け出せていない。FacebookやTwitterによってWebは大衆化され、Googleすらも、英語圏のインターネットすらも相対化」(伊藤氏)
実は日本国内においても『ガラケー→スマートフォンでグローバル化』といった流れで、過去に通っていた道だったりもします。
開発のトレンドとこれからの課題
一方で、開発のトレンドは停滞することなく、変化を遂げてきています。以下のようなキーワードが、すでに当たり前の状況になってきています。
- 継続的デリバリー
- Githubを使ったソーシャルコーディング
- AWS
- DepOps
- リーンスタートアップ
また、現状の課題として、以下の3つを挙げました。
- モバイルプラットフォームの寡占、アプリストアの飽和
- 国内市場の相対的縮小・飽和
- Webの大衆化
これらの状況は昔とは異なってきており、個人で対応できない位に人が増え、飽和状態になっていると指摘。