可能性(Potential)について
動画を観終えた後、福田氏は「自動車業界は今ターニングポイントにある。カルロス・ゴーンも『次の5年で過去50年より多い変化・進化が見られるだろう』と述べています。それくらい重要な転換期にいるのです」と、今がとても重要な時期であることを強調しました。
車がこれまで培ってきたハードウェアの部分はそのまま進化していくことでしょう。ただ、それプラス何ができるか。その1つが「コネクティッドカー」。車自体、これまではスタンドアローンだったものがインターネットやインフラなど、さまざまなものとつながっていきます。車同士もつながるでしょうし、つながっていくことでサービスもいろいろな展開が可能となります。
その先はどうか? 福田氏いわく、組織としてやろうとしているのは「モビリティサービス」。すなわち移動手段に関する部分です。どうすれば人が行きたいところに効率良く移動できるのか、これからのお客さまの生活や移動手段をより良くしていこう、というのがモビリティサービスの狙いとなっています。
車に期待される側面としては、近年はより「安全性」や「便利さ」といった部分にシフトしてきています。また、ライフスタイルとしても「車を所有する」というものから「車を持たなくなってきている・共有する」という状況の変化も最近では見られます。こういった変化の中で新しいモビリティの手段もまた期待されているのです。
NISSAN INTELLIGENT MOBILITY
業界全体のニーズに対して日産が行っている取り組みについて、福田氏は「NISSAN INTELLIGENT MOBILITY」というキーワードと要素の構成図を用いて説明しました。
このコンセプトには3つの柱があります。「INTELLIGENT DRIVING」は自動運転技術を使って事故を無くしていく(ZERO Fatality)ことを、「INTELLIGENT POWER」は環境に優しくする(環境保全)ことおよび、お客さまの車に対するコストを下げていくことを目指しています。
そして第3の柱となる「INTELLIGENT INTEGRATION」の部分。こちらはコネクティッドカーの実現によって、さまざまなサービスやインフラなどを統合していくことを目指しています。ただ、まだあまり実現はできていないと福田氏は言います。しかしながら、この3つ目の柱が欠けてしまうと日産の目指すモビリティサービスは実現できないので、ミッションとしてはINTELLIGENT INTEGRATIONの部分に注力し、日産が目指す将来のモビリティサービスにつなげていきたい、との思いがあるようです。
ソフトウェアがキーとなる
冒頭で出てきた「ソフトウェアがキーとなる」という部分については、下記の図をご覧になることでその理由がお分かりいただけると思います。車の中(On-board)および車の外(Off-board)はいずれも、各社が提供しているプラットフォームの上にコネクティッドモバイルサービス群として成り立つ形となります。クラウド連携なども絡んでくるこの部分を作り込んでいくためには、ソフトウェアの技術が欠かせないものとなるのです。
新しいアライアンスにおける組織作り
日産ルノーはこの取り組みを行うために新しく組織を作りました。新しい組織を作った理由としては2つあり、1つ目の理由は日産・ルノーを含めた、さまざまな提携ブランドへ提供できる共通のプラットフォームを作りたかったというもの。そして2つ目が、エンジニアが入り込む“環境”そのものが無かったので組織を作った、というもの。既存の環境にはソフトウェアを作る人はおらず、そもそもエンジニアが活躍できる“場”自体が無い。「そのようなところにエンジニアを入れて進めていくよりも新しく環境を作ってそちらで活躍してもらおう、という狙いがあった」と、福田氏は説明しました。
挑戦(Challenge)について
セッション後半は日産が具体的にどういった取り組みをしてきたかについての説明がありました。
CAR CENTRICからCUSTOMER CENTRICへ
福田氏は「現在提供しているものは『CAR CENTRIC(車中心)』のものになってしまっている。これを『CUSTOMER CENTRIC(お客さま中心)』にしていきたい」とコメント。車載ナビや音楽機器を利用せず、スマホ等で代替されてしまっている現状を指摘しました。そして、「CAR CENTRICな形になってしまっているがために、この状況が発生してしまっている。なのでモビリティサービスとしては車の外、Off-boardの世界においてもカスタマー・エクスペリエンスを最適化し、お客さまの要望に合わせて変えていかなければならない」と、目指すべき方向性へのシフト、注力すべき部分について言及しました。
ソフトウェアとハードウェア、それぞれの開発サイクル
日産ではアジャイルでソフトウェアの開発を進めています。しかし、ソフトウェアを非常に短いサイクルで開発しなくてはいけない反面、ハードウェアの部分は開発サイクルが非常に長く、数年掛かる場合もあります。ハードウェアの開発サイクルに引きずられてしまうと良くないので、ここの部分については切り離して考えているそうです。
IoTアーキテクチャ
Webサービスにおける開発の場合、サーバとのhttps通信の部分が主なインタラクション(交流・相互作用部分)でしたが、IoTではそれに加えてクラウドや各種機器からの情報をコントロールする部分が増える形となります。エンジンであれば応答がすぐに返って来ない場合もあるでしょうし、非同期処理を考慮したユーザーエクスペリエンスの部分も最適化しなければなりません。また、1000万台規模のアクセスがリアルタイムでやってくるといったスケーラビリティを考慮する必要も出てくるでしょう。人と車の関係も1人1台だったものが、1人で複数台利用することや、複数人で1台を共用利用するというケースも考えられるようになってきています。「このように利用用途が複雑化した状況をカバーするインフラや仕組みを設計・構築していくことが求められており、またそれらを考えるのが楽しくもある」と、福田氏はコメントしました。
開発者フレンドリーな環境
組織を新しく作ったのとあわせて、開発環境についても開発者が仕事をしやすい環境を整えました(詳細内容は下記画像の内容をご覧ください)。福田氏はこれらの要素についても「こういうことを準備できなかったらエンジニアは来てくれないし、来てくれたとしてもまた去っていってしまう」と、必要性を説きました。
さいごに
福田氏は中目黒オフィスやグローバルチームなどの紹介を行った後、最後にもう1本、以下の動画を流しました。
そして、「エンジニアとして関われる分野は非常に広範であり、エンジニアにとってこんなにエキサイティングな環境は無いと思っています。世の中を良いものに変えていこう、という思いを持つ人がいましたらぜひ一緒に働きましょう」と、呼び掛けてセッションを締めました。