ビジネスでも存在感を発揮するエンジニアは、どんなキャリアを歩んできたのか?
──自己紹介をお願いします。
西川仁さん(以下、西川さん):小売・サービス業の店舗スタッフ向けアプリケーションを開発するバニッシュ・スタンダードの取締役CTOを務める西川仁です。以前は同社においてAI分野の開発責任者を務め、この4月1日よりCTOに就任しました。
私のキャリアについてお話すると、大学院の修士課程ではAIの分野を学びました。ちょうどインターネットが普及し始めた時期でしたので、学生時代はプログラミングと読書に興味を持っていました。機械に文章を書かせたり、処理させたりすることに魅力を感じ、自然とその分野に進みました。
修士課程を修了後は、新卒で日本電信電話(NTT)の研究所に入り、7年間勤務しました。そこではテキストの要約に関する研究を行い、その成果をユーザーが利用できるサービスに展開するところまで携わりました。アイデアを生み出し、プログラムを書いて、実験を行い、論文を執筆して、最終的に商品化するまで、ビジネスの一連の流れを研究所で経験できたと思っています。
転機となったのは、2011年の東日本大震災です。その時、私はNTTの研究所で新しいサービスを立ち上げる最中でしたが、災害が発生し新サービスは軌道に乗る前に頓挫しました。NTTの研究所にいるというと技術職の中でもエリート扱いでしたが、災害の場面では人々の役に立てませんでした。この経験は、自身のキャリアについて考え直す契機となりました。
その後、新たな挑戦を求めて研究所に在職しつつ、博士号を取得し、東京工業大学で教員として勤務しました。5年間教員を務める傍ら、サバティカル制度を利用して海外でMBA(Master of Business Administration)を取得しました。サバティカル制度というのは、大学教員が特定の期間教務から離れて、自分の研究に専念できる制度のことです。
研究所では研究員とユーザーの距離が遠く、ユーザーへの価値提供を軸としたビジネスの知識の不足に危機感を抱いていました。実は、前述のサバティカル制度を利用してMBAを取得する日本の大学教員はほとんどいません。しかし良い技術をユーザーに届けるにはそれをサービスとして継続させていくビジネススキルが不可欠だと思っていたので、博士号取得直後からMBAの取得を目指し、準備を進めていました。
MBA取得後は、実用化される技術に焦点を当ててビジネスに関わりたいと考え、バニッシュ・スタンダードの技術部門を引き受けました。そして、この4月からはCTOとして、エンジニアリング部門と、プロダクトの品質を追求する部門を担当しています。