Webサービスから車載ソフトウェア開発へ、転身するきっかけとは
JAPAN MOBILITY SHOW 2023で公開された「チューリング ファルコン」は、チューリングが完成車メーカーになるために必要なノウハウを獲得するため制作された、初のオリジナル車両である。自社開発のシャシやボディに加え、開発中のIVIシステムも披露。このIVIシステムの立ち上げから携わってきたのが、渡邉氏である。
渡邉氏がチューリングにジョインしたのは、チューリングが設立してちょうど半年。入社のきっかけは、山本一成代表取締役CEOのツィートを見たことだ。「テスラのIVIディスプレイの写真とともに、『ここのUIをつくってくれるAndroidかWebかQtのエンジニアを現在募集しています!』と書かれていました」と渡邉氏は話す。
テスラユーザーだった渡邉氏は、テスラのIVIシステムには普段から触れていた。しかも、新卒で入社した前々職のサイバーエージェント、前職のリクルートで、Webサービスやスマートフォンアプリ(以下、スマホアプリ)の開発というように、約10年ソフトウェアエンジニアとして経験も積んでいた。渡邉氏は「面白そうだし、IVIシステムのUI開発であれば、普段、自分が携わっているスマホアプリ開発の経験や知識がそのまま生かせるのでは」。そう思い山本氏にDMを送付したという。すると、「話しませんか」という返事が来て、トントン拍子でチューリングへのジョインが決まったという。
チューリングへの参画が決まったのは22年2月。「当時は代表の2人がいるだけ。私もまだ正社員という形ではなかった」と渡邉氏。まったくゼロの状態からの開発。「技術はこれを使ってほしいというようなことも一切なく、テスラのIVIシステムのようなものを作りたいというオーダーがあるだけだった」と振り返る。
Android OSで開発されたIVIシステム、技術選定の決め手とは?
IVIシステムの開発に取り組むことになった渡邉氏だが、最初の障壁となったのが、技術の情報がなかなか得られないことだ。「例えばモバイルアプリであれば、AndroidやiOS上で動くアプリケーション、WebサービスであればChromeやFirefoxなどのブラウザ上で動くアプリケーションをつくればよい。しかしIVIシステムの場合は、どんなハードウェア、どんなOS上で動かすソフトウェアにすればいいのかがわかりませんでした。また車は人命を預かるため、業界特有の技術を使った方が良いのではなど、自動車業界ということで気負ってしまい、技術選定で迷子になりました」(渡邉氏)
インターネットで流れてくる情報をウォッチすると、IVIシステムに限っては昨今、Androidを採用する流れが見えてきた。「Androidで動くのであれば、これまでモバイルアプリを開発していたエンジニアもこの業界に入りやすくなる」と渡邉氏は考えたという。IVIシステムは直接、人命に関わるシステムではないとはいえ、安全性は気になる。「とにかく何も分からないので、Androidをはじめ、自動車業界で使われているOSについて検証したり、触ってみたりすることから始めました」(渡邉氏)
その結果、業界動向、人材採用のしやすさなどの観点から、IVIシステムのOSにAndroidを採用することにしたという。
渡邉氏は入社前、チューリングは自動運転システムを開発するだけで、本気で完成車メーカーを目指しているとは思っていなかったという。そんな渡邉氏に、山本氏たちは「2030年には完全自動運転EVを1万台量産する完成車メーカー」を目指すためのロードマップを示したという。
その一歩としてまず携わったのが、「THE FIRST TURING CAR(以下、ファースト・チューリングカー)」の開発である。