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電子書籍を耳で聞く未来~日本点字図書館に訊く商用テキストの音声データ化にまつわる現状と課題

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目で見るか、耳で聞くか

 話を聞き始めて、当初の想定の間違いに私は気付きました。その「間違い」について順に書いていきます。

 まず私は「視覚に障害がある人は、耳で本を読むのだろう」と思い、話を聞きに行きました。しかし実際には、視覚に障害があると言っても、様々なケースがあるのだと知りました。視野に問題があったり、白地に黒の文字が判別しにくかったり、症状は人により千差万別です。そもそも全盲でも、真っ暗になるわけではありません。そして人によっては、少しでも文字が見えるからと、可能な限り目で読書しようとする場合もあるそうです。

 目で読書をしようとする背景には、現在の視覚障害者の置かれた状況があります。医療の発達により、幼少の頃からの視覚障害者は少なくなっています。現在多いのは、中年以降に視覚に困難が生じるケースです。緑内障や糖尿病、事故の場合もあります。実際、日本点字図書館の利用者は、50代以降が多く、40代以前の若い世代は少ないそうです。つまり、それまで目が見えていた人が、視力を落として読書が困難になるわけです。

日本の視覚障害者の統計

 日本の身体障害者は約350万人。うち、視覚障害者は約31万人(付録 8 障害児・者数の状況|平成25年版 障害者白書(全体版) - 内閣府)。

 視覚障害者は50代以降が多い(平成18年身体障害児・者実態調査結果 - 厚生労働省 11ページ)。

「年齢階級別の身体障害児・者数」より集計
年齢階級(歳) 人数(千人) 比率(%) 日本の人口比率(%)
0~19 5.9 1.91 17.19
20~29 5 1.62 9.88
30~39 12 3.88 12.11
40~49 21 6.80 14.96
50~59 46 14.89 12.17
60~69 66 21.37 14.52
70以上 153 49.53 19.16

 日本の人口比率は、統計局ホームページ/人口推計/人口推計(平成28年10月1日現在)の「参考表1 年齢(5歳階級)別人口―総人口,日本人人口(各月1日現在)」平成28年10月分を利用。

 日本点字図書館では、利用登録に際して障害者手帳の提出は求めていないそうです。それは人によって状況が違うためです。面談や電話で判断して利用を決めています。

 本を音声化して利用することは、著作権法第37条第3項の中での運用に当たります。この法律に基づき、日本点字図書館では、点字図書や録音図書などの全国最大の書誌データベース兼ダウンロードサイト「サピエ」というサイトも管理しています。

 次に電子書籍の利用についてですが、ePubに代表される電子書籍は、視覚に困難があり、耳でしか図書を利用できない点字図書館利用者には、ほぼ使われていません。そうした人は、デイジー(DAISY)を利用しています。

 デイジーは、HTMLのように構造化された規格です。デイジーには「マルチメディアデイジー」や、音声データのみの「音声デイジー」、テキストのみで音声合成を利用する「テキストデイジー」があります。マルチメディアデイジーでは、音声とテキストが同期しており、たとえばiOSのアプリで利用すると、読み上げ位置をハイライト表示しながら、音声を聞くことができます。点字図書館で製作・提供されているのは、音声デイジーがほとんどです。

 ePubにも、アクセシビリティについての規格は入っていますが、現状はデイジーが用いられています。デイジーの利用には、専用端末が使われることが多く、シナノケンシ株式会社が最大手となっています。

 さて「市販の電子書籍を耳で聞いている」という前提で話を聞きに行ったのですが、点字図書館の利用者にはePubなどはほとんど使われておらず、専用のデータを使っていることが分かりました。市販の電子書籍が使われていないのは、以下のような理由からだそうです。

音声合成を行う「TTS」の精度・音質がまだ低い、そして広く根付いていない

  • 仕事をしている人、インテリ層、若者では「TTS」(text-to-speech)が使われている。ただ、視覚障害者は高齢者が多く、鑑賞用途での図書利用のために肉声を求めている。高齢者の間では「TTS」は根付いていない。
  • ePubにはTTS発音情報辞書である「PLS」(Pronunciation Lexicon Specification)や、テキストをTTS用にマークアップする「SSML」(Speech Synthesis Markup Language)を入れられる。しかし、そうした情報が入っている本や、対応しているリーダーはほとんどない。そのため、読みやアクセントが正しく読まれない。

商用電子書籍がTTS対応かどうかが分かりにくい

  • リフロータイプの本(テキストデータの入っている本)と、画像化しただけの本が混在しており、買うまでどちらなのか分からない。
  • DRMが掛かっているため、PCのスクリーンリーダー(読みの辞書を登録可能)が使えないケースがある。

そもそもお金を払って読むという文化が広く根付いていない

  • 障害者向けのサービスで、無料で利用できるものが多数あるため、お金を払って電子書籍を買うという行動が少ない。

 以下、参考情報です。

 音声合成を行う「TTS」の精度や、発音情報辞書「PLS」、音声合成マークアップ言語「SSML」の導入については、技術者として傾聴すべき点が多々あると感じました。現状は、市販の電子書籍の利用はごく限定的です。しかし、今後も利用されないのかと言うと、そうではないようです。

 デイジー図書の製作の現場では、デイジーとePubの出力は同時に行えるようになってきています。リーダー側が対応すれば、切り替えが可能です。また、デイジーの機器も、ePub対応になってきています。

 デイジーの普及には10年ほどかかったそうです。機器の買い換え需要や、助成のサイクルから、ePubが普及するとすれば、10年ぐらい掛かるだろうということでした。音声再生機器は4~8万円ぐらいして、障害等級によっては自治体の給付制度により低負担で入手できます。しかし、給付制度が使えるのは、一商品につき数年ごとなどの制限があるため、そう頻繁には買えません。

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録音図書の製作

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この記事の著者

柳井 政和(ヤナイ マサカズ)

クロノス・クラウン合同会社 代表社員http://crocro.com/オンラインソフトを多数公開。プログラムを書いたり、ゲームを作ったり、記事を執筆したり、マンガを描いたり、小説を書いたりしています。「めもりーくりーなー」でオンラインソフト大賞に入賞。最近は、小説家デビューして小説も書いています(『裏切りのプログラム』他)。面白いことなら何でもOKのさすらいの企画屋です。 

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/10663 2018/02/09 14:00

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