録音図書の問題
ボランティアの協力により製作されている視覚障害者向けの録音図書ですが、将来に向けて抱えている問題もあります。
まず、ボランティアの高齢化です。現在、ボランティアの担い手は、経済的に余裕のある人たちです。今後は、社会全体として余裕がなくなるので、ボランティアが減ることは目に見えています。
そして、ニーズが増えてきているテキストベースのコンテンツ製作に、協力してくれるボランティアの少なさです。前述のとおり、ボランティアの中心は60~70代の主婦です。そうした人たちは、読み手となることは好みますが、テキスト編集やマルチメディア化を伴う作業は、あまり好みません。世代による得手不得手があります。
こうした人手不足を解消するためにも、可能な限り人手に依存しない仕組み作りが必要になります。完全自動化やクラウドソーシングの利用。人手が必要な作業もマイクロタスク化して、拘束時間を短くして負担を少なくする。どこまで自動化できるか、精度を上げられるかが肝とのことでした。
情報化時代であるため、視覚障害者も可能な限りリアルタイムで、新しい情報に触れられるようにしたい。現状の市販の電子書籍は、まだそのニーズを満たしていないようでした。
最後に
今回の取材で聞いた、日本点字図書館が抱える課題について書いておきます。それは、医療現場との連携が取れていないことです。
人が視覚に困難を生じた際、真っ先に必要になるのは、生活を補助する数々の用具です。日本点字図書館では、点字図書や録音図書の提供だけでなく、そうした用具の展示や販売も行っています。入り口にはそうした用具が並んでいます。
医療の現場では、治療は行うが視覚障害者向けの相談や支援までは行っていないケースが多いそうです。そのため視覚に困難が生じた際に、日本点字図書館のような施設があることを知ってもらうことが大切だと話していました。
視覚障害者になる人は、50代半ば以降が多いです。その世代の人たちは、仕事を持っている人たちです。そしてメールを書き、PCを利用する人たちです。日本点字図書館では、視覚障害者向けのIT利用の講習会も開催しています。
今回、電子書籍について調べていたら、思わぬ形でのIT利用について、勉強する機会を得ました。というわけで、こうしたITの世界もあるということを、記事にまとめておきます。