キャリアを最速で駆け上がるために
では、キャリア戦略を設定したうえで、その道を最速で駆け上がるには何が必要なのだろうか。松本氏は、エンジニアのキャリアが上がるにつれて必要になるスキルの変遷を、カッツモデルと呼ばれる図で示した。

この図によれば、ヒューマンスキルはどのようなポジションでも共通して求められる。ジュニア層は主にテクニカルスキルが求められるが、職責が上がるにつれてコンセプチュアルスキルの求められる割合が増える。テクニカルスキルを持っている“だけ”では、徐々に通用しなくなってくるのだ。なぜだろうか。
「テックリードというポジションを例に考えてみます。テックリードとは技術で組織をけん引する人であり、単なる技術のエキスパートではありません。テックリードになったからには、組織のなかで多くの人たちに影響を与え、企業内の技術の平均レベルを上げていく必要があります。自分自身の成果と、自分が影響を与えた人たちによる成果の総和が、テックリードの評価になるべきなんです。
だからこそ、テック寄りの方向に進むにせよ、マネジメント寄りの方向に進むにせよ、コンセプチュアルスキルやマネジメントスキルを重視していかなければ、活躍の場は徐々に減ってしまいます」
松本氏は次に、「キャリアのステップを登るコツ」というテーマを提示した。キャリアを登るためには、意思決定を行い、結果を評価されることが重要である。そのプロセスにおいて、同氏がこれまで大事にしてきたことが4つあるという。

1つ目は、意見を正しくぶつけ、意思決定には従うこと。たとえどれほど正しいことを言っても、理論的な話をしただけでは企業内で主張は通らない。意見を受け入れてもらうには、「どうすれば企業の課題解決に貢献できるか」を徹底的に考え、施策に落としこむことが重要だ。
課題を解決するには、事業やマネジメント層が抱える「課題そのもの」を発見する必要がある。そのためには、世の中や社内に転がっている情報を適切に解釈するスキルが求められる。
さらには、ひとたび意思決定がなされたなら、たとえその決定が自分の意にそぐわないものだったとしても、実現のために全力で努力する姿勢が重要だ。「全力で取り組むことで、その時間をすべて有益な経験に変換できる」と松本氏は言う。
2つ目は、自分という人間を知ってもらうこと。たとえ同じ会社で働いていても、自分の長所を他のメンバーが知らないことはままある。これは機会損失だ。仕事を任せてもらい意思決定のチャンスをつかむには、自分がその役割に適任であることを誰かに知ってもらう必要がある。
職場での雑談やリーダー・マネージャーとの1on1、カンファレンスや勉強会での登壇など、情報発信の機会は数多くある。そうした場で適切に自分の情報を発信することで、自分の思い描くキャリアに進める可能性が高まるという。
3つ目は、意思決定者を理解すること。組織では、どのような流れで意思決定が行われるかが構造上決まっている。だからこそ、誰がどのレベルの意思決定をしているかをきちんと理解することが、自分の意思を事業に反映させるための第一歩となる。
特定の職務領域において誰が意思決定しているのかを見極めることを、松本氏は「ボス猿を探す」と呼んでいるという。群れ全体を導くボス猿が「何に困っているのか」「何を目標にしているのか」を理解することで、より自分の意見が通りやすい環境が生まれるのだ。
4つ目は、自分の意思と組織の要求を高次にすり合わせること。正しい目標を設定し、その実現のために適切な意思決定を行うことで、組織の成果と自分の成長が両立する状態をつくることが重要である。それを続けていくことで、自分の目標と会社の目標が合致するような意思決定が増えていくという。
20代のうちにGunosy、DMM.comのCTOを歴任した松本氏は、いわば「キャリアを最速で駆け上がったエンジニア」のひとりである。そんな彼の語る数々のノウハウは、多くのエンジニアにとってキャリア選択の指針となるものであった。
