grasysでは運用設計と継続的改善を重視
grasysのシステムに対する考え方の特徴は、運用設計と継続的改善を重視していること。「この2つを重視することで運用コストの削減、更新の容易さ、障害復旧性や安定性が向上する。手を入れる前提にしているのが他社と違うところだ」と長谷川氏は説明する。
そのため、「自社で作っているプログラムもたくさんある」と長谷川氏。HashiCorpの製品に加え、OSSやElasticのツールも多数、使用している。その工夫の例として、長谷川氏は監視系のアーキテクチャを紹介。「オンプレミスやVMはConsul、GKE系はPrometheusを使っているが、ヒューマンインターフェースの終端については、Grafanaに統合している」と、画面を一つにすることで運用の効率を意識したと語る。
またオーケストレーションのアーキテクチャも、Consulのみだと簡易的なので、ターゲティングと定型オペレーションについては、Goで記述した「gorc」というプログラムを自社開発し機能を補完しているという。「運用を高速化するために、この部分にはこだわっている。シーケンスで10台ずつなどでも運用できるし、全台並列でも実行できるように、工夫している」(長谷川氏)。
エンジニアが起業するメリット、デメリット
セッション後半は、「エンジニアの起業」をテーマに展開。なぜ、このような話をするのか。「エンジニアのみなさんには起業してもらいたいからだ」とその理由を明かす。
2010年、長谷川氏が30代のときに転職したgloopsは、10人の社員数が2年後には700人にまで増え、急成長を遂げたという。同社で長谷川氏はインフラの責任者として、オンプレミス2200台、秒間15万リクエストの巨大なシステムを作った。そんなとき、Dellのテレビコマーシャルに出演。「有名になると失うばかり。あまりいいことはなかった」と吐露する。
その後、開発部長を経て本部長に昇進したときは、350名の部下ができた。この頃より、やらなければならない仕事と自分のやりたいことのかい離に悩み始めたという。ネクソンへ会社が売却された頃より、起業を意識するようになり、2014年に退職。「最初は知人の独立に協力する形をとったが、完全に失敗し、生活困窮に陥った」と笑いながら話す。だが、それで参ったわけではなかった。「やりたいことをやれる会社を作ろう。そして金持ちになってやる」と起業を決意したという。
起業準備で意識したのは、仲間や資金、計画、プロモーション、営業、情熱だったという。中でも一番大事なのは「情熱だ」と長谷川氏。資本金は50万円。そこで日本政策金融公庫で創業融資を受けたという。
創業融資で準備したものは、事業計画、事業(ビジネスモデル)説明、人員計画、設備投資費。「事業計画は起業後2カ月分の正確なランニングコストから、事業拡大を想定したランニングコストまでをエビデンス付きでまとめること」と長谷川氏は語る。また事業説明ではソースを付け、マーケットの規模と未来予測を説明する。人員計画では将来の組織図に加え、誰に何を任せるかも含めたビジネスフローを作成。設備投資費では、設備に関する各種見積もりをすべて添付したという。「数字のずれは特に気をつけてほしい」と長谷川氏。こういった準備をしたことで、無事、1500万円の創業融資を受けることができた。
エンジニア起業の悪いところは、良くも悪くも、経営者自身がエンジニアで「技術以外に興味がないところだ」と指摘する。一方エンジニア起業の良いところは、「エンジニアなので技術に関して高いボルテージで話せること。そしてエンジニアが評価されない会社にはならないことだ」と力強く話す。
起業前は金持ちになりたいという思いを持っていたが、起業後は「みんなを豊かにすることを考え始めるようになった」と長谷川氏は笑みを浮かべる。現在、創業5期目で完全独立、独自資本で経営している。「堅実に成長しており、財務面で税理士にも褒められるようになった」と満足そうに語る。
最後に長谷川氏は次のように展望を語り、セッションを締めた。
「ゴールはない。もっとgrasysを成長させていきたい。今は経営が忙しくてなかなかできていないが、大好きなエンジニアをこれからもやっていきたい」
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