はじめに
本稿では、前身のOpenStack Summitから見ても初めての中国本土での開催となったOpen Infrastructure Summit Shanghai(2019年11月4日~6日、非公式な参加者数は2,000名)において見られた全体動向を、以下の3つの観点で振り返ってみたいと思います。
- 中国企業・団体での利用とAPACマーケットの拡大
- 利用シーンの大規模・高信頼化(Webサービスからエンタープライズ、テレコムへ)
- OpenStack、Kubernetesを中心としたこれからのOpen Infrastructure
中国企業・団体での利用とAPACマーケットの拡大
OpenStackを使うこと自体はすでに当たり前のようになっており、市場規模も順調に成長しているという調査結果がキーノートスピーチでも触れられています(図1参照)。
中でも中国本土での初開催なこともあり、中国企業による事例が数多く紹介されたのが本イベントの最大の特徴と言えます。
フラグシップ的なOpenStackユーザ企業・団体を表彰するSuperuser Awardを受賞したWeb系総合企業である百度(Baidu)を始め、ソーシャル/Webを中心に勢力を広げる騰訊(Tencent)は自社サービスの基盤としてOpenStackを活用しています。中国における三大テレコムキャリアである中国移动(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)はすべてプライベートクラウドやパブリッククラウドとしてのサービスを提供中。競争が激しいペイメント領域からは中国銀聯(UnionPay)が、成長著しいユーティリティ領域からは中国中鉄(China Railway)がそれぞれのプライベートクラウドの事例を発表するなど、中国国内のあらゆる業態で、OpenStackの活用は特に珍しくないくらいに利用されていることが伺えます。
中国国内でビジネスを実施している企業に加え、HuaweiやZTEなどの世界企業もスポンサーとしての存在感を示していたほか、中国ローカルでクラウドのサービス・オファリングを卓朗昆仑云(Troila Kunlun Cloud)という名称で提供している卓朗科技(Troila Technology)が新たにOpenStack FoundationのGold Memberに選出されるなど、北米から始まったOpenStackが中国で着実に勢力を広げていることが感じられました。
また、OpenStackの利用者の観点だけでなく、開発者の観点でも中国は欠かせない存在となっています。実際に最新リリースのTrainサイクルでの貢献者の数で米国に次いで中国が2位となっており、「自らが使い、フィードバックをOSSコミュニティに貢献する」というサイクルを中国企業が積極的に実施していることがわかります。ちなみに3位はインドで、Open Infrastructure Summitも近々インドでの開催が実現するかもしれません。
キーノートスピーチでOpenStack FoundationのExecutive DirectorであるJonathan Bryceは、APAC地域におけるOpenStackマーケットが2023年までに36%の成長が見込める、という調査結果に触れており、IT投資が活況なAPAC地域において、OpenStackの利用がさらに広がっていくことが期待されます(図2参照)。