「推し」には時間・労力・お金を惜しまず、全力を注ぐ
マイクロソフトでCloud Developer Advocate(クラウド デベロッパー アドボケイト)として、国内・海外で多数の講演をこなし、「Developers Summit 2017」ではベストスピーカー賞 総合第1位を獲得しているちょまど氏。エンジニア兼漫画家として活躍し、Twitterのフォロワーは7万人を超えるインフルエンサーとしても注目されている。
だが、このキャリアを切り開くまでには、数々の困難を乗り越えた経験があったのだという。腐女子、オタク布教活動、漫画、英語、プログラミングなど、試行錯誤を繰り返しながらも好きなことを突き詰めてきたことが、現在のキャリア形成につながったと語っている。
そんなちょまど氏が「U30世代のエンジニアに伝えたいこと」として、挙げたのは以下の3つだ。
- 好きで打ち込めることを探してほしい
- あなたの人生です
- Follow your heart.
好きで打ち込めることを「オタ駆動開発」と表現するちょまど氏の定義によると、オタクとは推しに対して、並々ならぬ愛を持ち、それに対して時間や労力、お金などを投資している人。いつでも推しに対して、全力を注ぐというちょまど氏にも、最初は暗黒期があった。
「小児喘息で入院し、幼少期を病院で過ごしました。お絵描きとゲームに夢中になっていましたね。ここで私は、同世代の友達を作るチャンスを逃してしまったんです」
中学校時代は校則が厳しく、与えられたルールに黙って従わずに、怒られることもよくあった。そんな中、出会ったのがJ.K.ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』だった。
「翻訳版が出ていた当時の最新刊まで読み切ると、続きが気になり、日本語訳が出るのが待ちきれずに原書を読み始めました。誕生日にオーディオブックも買ってもらって、音読もしていました」
これもオタ駆動開発の一つで、英語との出会いだった。文法の知識を得るために、塾の本棚から高校の英語の教科書を借りて、中学1年生で高校1年生程度まで独学し、英検準2級も取ったという。
ガリ勉だった中学生時代から一転、高校は自由な校風の女子校に入学した。ここでの転機は趣味や好きなことに没頭できる幸せを知り、「腐教活動(同じ趣味の沼に落とす活動)」にいそしむようになったことだ。
「『敵同士に萌えるんだっけ?お勧めの漫画があるから、これ読んでみて!』『ちょっと二次創作の漫画を描いてみたんだけど、どうかな?』と、腐教活動を大変楽しんでいました」
通塾用に与えられた携帯では、BL小説や漫画を見まくっていたというちょまど氏。そして、閲覧者から生産者にジョブチェンジしたい、自分の書いた漫画をネット上のオタ友にシェアしたいと考えるようになった。
自分のWebサイトで作品を見てもらうために、プログラミングを学ぶ
大学で「情報学科」に行けば、四六時中PCを使えると考えたちょまど氏は、受験するものの不合格となり、英文科に入学する。だが、またここで運命の出会いを果たす。母が大学入学祝いにペンタブ(デジタルで絵を描くツール)付きのパソコンをプレゼントしてくれたのだ。
当時はまだ「pixiv」のようなイラスト・漫画・小説が投稿・閲覧できるサービスが広く広がる前だったため、個人サイトを作って、自身が描いた絵を発信しようと試みる。そのために、HTMLやCSSを勉強した。
「これまでの腐教活動はオフラインだけでしたが、オンラインでもできると思ったんですね。無料でWebサイト作れるサービスもあったんですが、バナー広告が表示されないサイトにしたくて、自分でサイトを作ろうと思い、プログラミングに触れるようになりました」
自分のWebサイトで、マウスカーソルに好きな推しキャラのアイコンがついてくるようにするためにJavaScriptを勉強し、サーバーも構築。さらに掲示板が欲しくてPHPも勉強した。当時は寝食も忘れてプログラミングに没頭し、10キロくらい痩せてしまったのだという。
だが、最初は初心者向けの本も読めなかった。まず、入門書で書かれている技術用語が理解できない。「ググればググるほど、わからなくなった」ちょまど氏は、Twitterで猛者たちに「プログラミング初心者なんですけど何をやったらいいでしょうか」と、質問してみた。
すると、「JavaScriptなんて暗黒で恐ろしい言語はダメだ。純粋関数型言語であるHaskellからやった方がいい」とアドバイスされた。本を買って必死に勉強するものの、やはりわからない。
「わからなかったけど、コードを書いて動かす楽しみと快感を覚えたんですよ。Haskellをもっと理解したいと相談したら、『圏論の基礎』という本を勧められました。でもその本も全然わからなかったんです(笑)」
基礎知識が欠落していると考えたちょまど氏は、基礎から勉強できる本を聞いたところ『OS自作入門』を勧められる。さらにプログラミング言語を理解するには自分で作ってみるのが一番だと、「Lispの中のSchemeは言語仕様が簡単だから、処理系から書くといい」というアドバイスも受ける。
「言語処理系の実装が難しくて、本当に無理でした。みんな親切に教えてくれるのに、私が情報系の大学に落ちたから……と、落ち込んでいました。やればやるほどわからない。でも楽しいから止めたくない。でも沼に落ちてしまったのでしょうがない」
そこで、ちょまど氏は基礎を1から学び、体系だった知識を習得するため、基本情報技術者試験を受ける。毎日8時間くらい勉強し、見事合格を果たす。
「これでTwitterの猛者たちが何を言っているのか、ようやく理解できるようになりました(笑)」
基礎が理解できるようになったことで、プログラミングがさらに楽しくなってきたちょまど氏。その猛者たちの影響で、C++のメタプログラミングなどディープな技術の沼にはまっていった。
絵やプログラミングの勉強をする一方で、サイト運営も続けるなど、毎日コードを書いたり、絵を描いたりする大学生活を送っていた。サーバーの運用費を稼ぐために、塾講師のバイトも始めた。この小学生にもわかるように教えた経験は、現在のCloud Developer Advocateとしての仕事にも役立っている。