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ProductZine Day 2024 Winter

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ProductZineウェビナーレポート

不確実な状況でもプロダクト開発を続けるために――はてな・プレイドが語る、コロナ禍の課題と適応のヒント

ProductZineウェビナー「プロダクト作りのトランスフォーメーション」レポート

 新型コロナウイルス感染症対策として、4月7日に緊急事態宣言が発令されて以降、多くの企業では在宅勤務が推奨された。これにより、プロダクト開発の現場も在宅勤務に切り替わり、大きな影響を受けた。オフィスに集まって開発していた時と、何がどう変わり、どんな課題が浮き彫りになったのか。それをどうアップデートしたのか。9月4日に開催された「プロダクト作りのトランスフォーメーション」では、そんなプロダクト開発のアップデートを遂行した2社、はてな サービス・システム開発本部 Mackerelチーム ディレクターの粕谷大輔氏とプレイド ソフトウェアエンジニア/Head of Engineeringの門脇恒平氏が登壇。不確実な状況でも変わらず成長し続けるための「変化への適応」のヒントを、実践を踏まえて解説した。

コロナ禍で何が変わり、何が変わらなかったのか

 最初に、はてなの粕谷氏が登壇。粕谷氏はサーバー監視サービス「Mackerel(マカレル)」の開発チームのディレクターを務めている。「今日はこのプロダクトの開発の現場で最近起こったことについて話す」として、粕谷氏のセッションは始まった。講演タイトルは「この半年で変わったものと変わらないもの-SaaS開発の現場より」。

はてな サービス・システム開発本部 Mackerelチーム ディレクター 粕谷大輔氏
はてな サービス・システム開発本部 Mackerelチーム ディレクター 粕谷大輔氏

 はてなでは2月中頃から、上長に相談すれば全スタッフは在宅勤務が可能になったという。3月中頃には在宅勤務に切り替える人が増え、粕谷氏自身は「3月25日から完全在宅勤務になった」と言う。現在はルールが緩和されているものの「週に1~2日ぐらい出社する人もいるが、基本は在宅勤務」と語る。

 元々、Mackerelチームは東京と京都にオフィスがあるため、リモートチームである。その中には一人だが、在宅勤務のメンバーもいたという。そのため、「開発ルールや開発プロセスはリモートが前提だった」と明かす。だが、準備して在宅勤務している人と、出社前提の生活設計の人が在宅勤務をするのでは事情が異なる。「個人の事情にスポットを当てると、必ずしも在宅での仕事を前提としたものではない。チームをとりまとめている立場としては仮説を立て、チームをよく観察していく必要があると考えた」と粕谷氏は振り返る。

 粕谷氏が立てた仮説とは「在宅勤務に慣れていない人が多いので、パフォーマンスに影響があるのではないか」。この仮説を検証するため、パフォーマンスの計測を実施したという。計測に当たり、粕谷氏は「計測はあくまでも現状把握のためで、善し悪しを測るものではないということについて口を酸っぱくするほど話した」と言う。たとえ仮説通りにパフォーマンスが低下していたとしても、緊急避難的な措置なので、それを見越した開発計画を作り直せばよい。そのために開発タスクのリードタイムを計測するという方法を用いたのである。

GitHubのPull Request最初のcommitから、メインブランチへのmergeまでの時間を計測した
GitHubのPull Request最初のcommitから、メインブランチへのmergeまでの時間を計測した

 デブサミ夏の発表時点ではパフォーマンスに変化はなく、「育児との両立が難しいなど、個人単位ではいろいろあった。それらは個別に1on1で拾っているが、チームとしては大きな影響はないことがわかった」と粕谷氏は話していた。さらに2カ月が経過した9月の発表時点では、「パフォーマンスが落ち始めている」と粕谷氏は言う。

 いわゆるリモート疲れが出ていることもあるが、実ははてなの期末は7月で、8月から21年度が始まる。「もしかしたら期末期初を挟んでいるので、そこで数字に変化が出たのかもしれないが、まだこれが原因だと特定はできていない」(粕谷氏)

 パフォーマンスの計測方法はいろいろあり、Mackerelチームでは広木大地氏の提唱するジニ係数による安定度の指標など、さまざまな指標を使いながらパフォーマンス計測をしてこの数カ月を過ごしてきたという。

パフォーマンス低下を防ぐためワーキングアグリーメントを導入

 パフォーマンス低下を誘引するリモートワークの最大の課題は、雑談ができない、近くの同僚に気軽に質問しづらい、テキストによるコミュニケーションが主体となるなどコミュニケーションの低下である。この課題を解決するため、Mackerelチームではいくつかの新たな施策を取り入れた。Discordというボイスチャットルールの導入、デイリースクラムを行う昼会に加え、雑談の場として夕会を設けた。また、ワーキングアグリーメントを取り入れたという。

 ワーキングアグリーメントとは、チームの暗黙的な約束事を明文化すること。「僕たちはサポート担当当番やリリース当番などの当番制を設けてローテーションしている」と粕谷氏は言う。粕谷氏のチームでは2週間のスプリントで動いており、そのタイミングごとに見直しをしているという。

 「ワーキングアグリーメントは特にお勧め」という粕谷氏。在宅勤務はオフィスワーク以上に個人の裁量が大きくなる。裁量が個人に委ねられるとはいえ、チーム運営のためにはある程度強制力を伴ったルールが必要になる。このバランスを取るために、「ワーキングアグリーメントは非常に重要なツールになる」と粕谷氏は言うのである。

 またワーキングアグリーメントは新しい施策を試しやすくもする。「不確実な状況に対処するためには、いろんなことを試したい。新しいチャレンジが不評であっても、1スプリントを我慢すれば見直すことができる。チャレンジもできるし、そのチャレンジに対する意見も言いやすい。そういう環境も作ることができる」と粕谷氏は語る。

 まだ新型コロナウイルス感染症の終息は見えていない。これからも不確実性の高い状況は続く。「新しい施策を採りながら、日々チームを変えていくことが大事だと思う」と粕谷氏は語り、セッションを締めた。

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不確実性の高い世界の中で、非連続な成長を生み出すこととは

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この記事の著者

中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

 大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

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