理想的なチャンスは回ってこない だからこそすべきこととは
――さまざまな会社に所属しながらキャリアを形成されてきたと思いますが、そのなかでどのような気づきを得ることができましたか?
僕の場合、コミュニケーションデザイン、マーケティング、ブランディングの3つを重ねたキャリアを意識的に設計していましたが、単純にキャリアを重ねることは、本当に骨が折れることだなと痛感しました。
いくつかのキャリアにまたがることで、複数の草鞋を履かなければなりません。Aという仕事をしながらBとCの仕事もして、かつ自分の領域を広げるためにさまざまな情報をインプットしなければならない。その時間をどう捻出し、自分の知識を深めていくかというのは、とても体力のいることです。
一方、そういったキャリアを選んだり、経験を積む機会に巡り合うことも難しく、運任せというか、偶発的なものになってしまいがちです。都合の良いような理想的なチャンスって全然やってこないんですよね。
たとえばマーケティングの戦略に関わりたいと思っても、いきなりその根幹に入り込めるのではなく、まずは短期のプロモーションで企画を作っていく部分から始めたりするわけです。もちろんそこで自分のスキルの幅を広げていくことはできると思うのですが、効率的に進められるものではないという実感もありました。だからこそ、どんなに小さな結果でも、ひたすらそれを積み重ねていくしかないのだと思います。
――キャリアについて考えるときに、ジェネラリストとスペシャリストのどちらであるべきかを迷うデザイナーの方もいらっしゃると思います。平澤さんはこのふたつのキャリアをどのように捉えていますか?
大切なのは、自分にあった働きかたを考え、軸をみつけることだと思っています。
その際にポイントとなるのが、「働きかたとその向き不向き」、「その働きかたで楽しめているか」、「結果を出せているか」の3つ。自分に合った働きかたを雇用企業と契約した職種ポジションのなかだけで考えるのではなく、自分自身のなりたい姿を想像し、それを叶えるためにできることをコツコツと積み重ねることです。働くなかで自分の楽しみややりがいを見出せると、行動の継続にもなり、結果的に実績・成果にもつながる。この兼ね合いが、満足のいくキャリアを選ぶためのキモだと感じています。
自分の軸をどこに置きたいか次第ですが、デザインの業務だけに取り組むことがデザイナーの成長につながるわけではないのです。今どちらかに決めつけず、自分の軸がどっちにあるのかを考えるためにも、一度別の選択肢にチャレンジしてみることをオススメします。武道の考えかた「守破離」のようになりたい方向を決めているにしても、その成長プロセスは別の道にあるかもしれない。また、その選択肢が自分に合わなければ戻ればよいですし、その行動によって新たな気づきがあったりもします。
デザイナーにおいては、体験設計やビジュアルを作ることでユーザーの感情を動かすことが得意だと思っていますが、そもそもなぜそうやって感情を揺さぶる必要があるのかという、デザインをする目的や意味を見失うケースは意外と多いように思います。デザインを作ることそのものが目的になり、そのサービスとして大切な方針や戦略を捉えずに作業を進めてしまうと、想定とは異なるネガティブな成果につながる可能性も高い。
デザイナーが業務に向き合う際には、戦略やそのブランドがもつ価値観、ビジネスにおける数字のロジックなどを理解したうえでビジネス視点でサービスに向き合ってみると、違った角度から デザインを作る意義が見えてくるのではないでしょうか。そういった観点からもデザイナーが、一度ジェネラリストになる選択肢もあって良いのではないかと思います。
――では、そういったデザイン以外の知識を深めるためにはまず何から始めてみればよいのでしょうか。最後にアドバイスをお願いします。
やはり大切なのは、ほしい情報は、拾いにいくことだと思います。デザイナーに依頼をする人たちは、表現の部分で必要な情報のみを伝えるケースが多いので、その表現に至った背景までわからないこともあるかもしれません。特殊なことではありませんが、なぜそういったデザインにする必要があるのかなど、気になった情報は周囲の人たちに自ら声をかけて情報を集めていると、その後も近い情報を教えてくれる方が増えるようになる。そしてそれが時には、デザインの領域を広げる機会にもつながります。
あとは、自分が興味のあるサービスやブランドで成功しているビジネスモデルを自分なりに調べ、観察することもオススメです。何でもよいのですが、お金の仕組みがどうなっているのか、なぜこのサービスが一部のユーザー属性から支持されているのか、どのような背景でそのサービスが生まれたのかなど、湧いた疑問を紐解いてみると、表面的には見えない重要な情報やサービスの裏側にある戦略的メッセージが垣間見れると思います。
――平澤さん、ありがとうございました!