ふとしたツイートから一晩でできあがった「インフラ勉強会」
2017年末の土曜夕方、エンジニアの佐々木康介氏はTwitter(現X)に「インフラ系の未熟者集めて、勉強オフ会やらん?」とツイートした。これがはじまりだった。この投稿をきっかけに、佐々木氏は「インフラ勉強会」を設立することとなる。
「参加したいです!」「面白そう!」と反応が返ってきた人を中心に、Discodeに集まり、初心者を対象としたインフラを学ぶ場を作った。驚くことに、賛同者たちはその日のうちにドメインを取得し、専用WikiやWebサイトを作ったという。
コミュニティの参加表明は3日で100人、1か月で1000人と瞬く間に増えていった。勉強会では、登壇したい人が自主的にテーマを決めて、コミュニティのカレンダーに登録する。誰かが主導して企画や日程を調整するのではなく、毎晩誰かが自発的に登壇するような状態が一年ほど続いたという。開始から半年後にオフラインイベントを開催すると、それがTwitterでトレンド入りするほどまで人気の勉強会となった。

佐々木氏は「たぶんあのとき、世界で一番熱い場所でした」と振り返る。
最初に呼びかけた佐々木氏はさまざまな経験を積んできたエンジニアで、現在の本業はインフラエンジニア、セキュリティエンジニア、PM、プリセールスなど。作家活動も行っている。また、ガッキー(新垣結衣さん)が好きで、本物と偽物の写真を見分けるAIモデルや、ガッキーらしいコメントするチャットボットを作成するなど、ガッキーを通じて技術を学んでいる。
なぜインフラ勉強会は盛り上がったのか、その秘訣とは?
なぜインフラ勉強会があんなに盛り上がったのか。佐々木氏は「インフラをゼロから勉強することだけを目的としていたから」だと言う。「ゼロから学びたいけど場所がない。ハイレベルな勉強会は敷居が高い」と遠慮していた層にとって、インフラ勉強会は絶好の機会となった。
呼びかけ当時、佐々木氏は業務で実力不足を感じており「勉強しなくてはらない」と考えていた。しかし、「やるなら誰かと一緒に」という思いもあった。こうした佐々木氏自身の要望もありつつ、それ以上に、初心者たちを導くことに意義を見いだしていた。これが多くの賛同者や協力者を引き寄せたのだろう。
基礎から教えることをモットーとしていたため、コミュニティはどんな初歩的な質問でも許容し、分かる人が答える場になっていた。質問者が理解するまで回答者は表現を工夫していくため、熟練者たちにとっても学びは多かった。
また、オンラインで実施されるため、参加のハードルが低い。そこで、参加者は自分の専門外でも視聴してみようという気になり、どんどん視聴者が増える。そうしてスキルを得て育った人が「今度は自分もしゃべってみよう」と登壇する。教えてもらえて成長すれば、今度は新入りに教えてあげたくなる。恩返しならぬ"恩送り"だ。そのような相乗効果でインフラ勉強会はどんどん盛り上がっていった。
Discodeを使い、双方向コミュニケーションが実現できていたのも大きい。発表者が解説しながらチャットに寄せられた質問に反応することもある。2017年当時、こうした双方向コミュニケーションができる場はなかなかなかった。感覚としてはコロナ以降に普及したライブ配信に近いかもしれない。
加えてオンラインなので地理的な制約がなく、さらに参加者は実名を出さず、顔を出さずに視聴することができる。ラジオのように何かをしながら聞いていた人もいたという。佐々木氏は「オンラインで完全にプライベート、プライバシーが守られて、しかもみんなが優しく受けいれてくれるし、何を話してもいいとか、何かの制約があって技術コミュニティに参加できなかった人を受け入れるいろんな条件が揃っていた」と言う。