ツール導入だけではうまくいかない、プロジェクトマネージャーと現場とのすれ違い
「アジャイルウェアの小林です。帽子をいつもかぶっていますので、帽子のコバヤシということでボウコバというニックネームで呼ばれています」と、軽妙な自己紹介からセッションはスタートした。
小林氏は、元々メーカーでソフトウェアのプロジェクトマネージャーをしており、『8年間トラブル0件』の実績を持つという。

さらにコミュニティではRedmineエバンジェリストとして活動している。Redmineとは、オープンソースでWebベースのプロジェクト管理ツールで、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や気象庁など、多くの著名な企業や団体で導入実績がある。小林氏が所属するアジャイルウェアでは、ガントチャート・カンバン・バックログなどの機能を追加した「Lychee Redmine」を提供している。

小林氏は、これまでプロジェクトマネジメントに関していろいろな相談を受けてきたが、正直ツールはどんなものでも構わない、それぞれの業務に一番あったツールを活用・連携するのが重要だと述べた。ツールを導入するだけではプロジェクト管理がうまくいかない場合が少なくないのだ。
「現場が使ってくれないとプロジェクトマネージャーは言いますが、ぜひ現場の意見をヒアリングしてみてください。そうすると、確かにそうだなという理由がいろいろ出てくると思います」
例えば、ツールを使ってくれというプロジェクトマネージャー自身が、ツールをろくに使わない。大事なことを書いても見てくれない、応答してくれない。報告を書いておいたのに口頭で同じことを聞かれる。Excelに同じ情報を二重管理している、といった具合にプロジェクトマネージャーと現場にすれ違いが発生しているのだ。
「場合によっては、何で本当のことを書くんだと怒られたなんて話も聞きました」
プロジェクト管理ツールの導入は、進捗や工数などの見える化のためトップダウンで進められることが多いと小林氏は指摘する。そのために、現場に相談や調整もなくいきなりツールが導入されたり、見える化できましたで終わってしまいチケットやタスクを登録しても放置されたりしているというのだ。
「結局、現場向けのメリットを示せていないことが一番の要因だと私は思っています。実はプロジェクト管理ツールは、見える化よりもナレッジの蓄積や活用に非常に有効です。ぜひこちらをアピールしてほしいです。そしてもう一つの要因として、互いのリスペクトが足りていないことがあると思います」

これは、最近よく言われる心理的安全性の低い環境だと小林氏は述べた。
心理的安全性が低い状態とは、「無知だと思われる」「無能だと思われる」「邪魔をしていると思われる」「ネガティブだと思われる」といった4つの不安がある状態のことだ。そして、どんな発言をしてもこの不安がない状態になるとチームのパフォーマンスが向上するというのだ。こうした考え方は、PMBOKの新しい版にも反映されている。