良い人材とツールを用意しただけでは、強いチームはつくれない
アトラシアンは、5大陸に5000名ほどの従業員を擁するグローバルなソフトウェア企業。同社では2020年のコロナ禍の影響もあり、現在もリモートワークが主流となっている。登壇したアトラシアン株式会社のソリューション エンジニア 皆川宜宏氏は「アトラシアンでは現在出社禁止が基本になっています。リモートワーク環境でのチームビルディングを実践し、その研究結果をシェアさせていただきたい」と切り出した。
「偉大な功績の裏側には、必ずチームが存在する」――たとえ頭脳明晰でカリスマ性のあるリーダーが率いた事業があったとしても、それを偉大なものにするにはチームワークの存在が必要と考えるアトラシアン。昨今のプロダクト開発で例えるなら、優秀なエンジニアを雇用し、便利なツールを用意すればよい成果が得られるわけでなく、チームによる適切な実践が必要不可欠である。皆川氏は、チームづくりにおいて注意しなければならない5つの『異常』に注意が必要であると注意を促した。その5つとは以下のとおり。
儀礼主義(Ritualism)
プロセスやプラクティスだけを重視し、価値や文化を度外視してしまう。
幻覚(Hallucination)
価値や文化のみで、ツールやプロセスを無視。トップダウンのスローガンだけで終わってしまう。
無駄(Wastage)
ツールを導入するだけでプロセスや価値に共感しない。やり方が変わらず結局ダメになってしまう。
強迫観念(Obsession)
価値とプロセスに共感しないままの行動。
疲弊(Exhaustion)
価値や文化も共感したが、ルールが多すぎるなど実践方法が人に優しくないために疲れてしまう。
サムズアップ・ダウンでチームの健康診断を行う
チームには、共通の目標を目指して協力するという定義がなされる。ただ最近のチームメンバーは固定ではなく、事業において何かのプロジェクトを達成したらメンバーが去り、次のプロジェクトでまた別のメンバーが集められる……といったように、休むことのない動的な活動となる。そこで、アトラシアンでは、社内のいろいろなチーム、いろいろなリーダーのチームビルディングの秘訣のようなものをドキュメント化した「Team PlayBook」を構築した。この構成要素は、「ヘルスモニター」と呼ばれる、チームの状態をチェックする健康診断と、「プレイ」と呼ばれる、課題への処方箋だ。
ヘルスモニターには、長期的なビジョンに取り組んでハイレベルな意思決定を行うリーダーシップチーム用、一つのプロジェクトを達成していくプロジェクトチーム用、サービスのリクエストをルーチン的に日々一定数裁いていくサービスチーム用の3種類がある。今回のセッションでは、プロジェクトチーム向けのヘルスモニターについての説明がなされた。
皆川氏は、ヘルスモニターについて「チームの状態を誰がどうやって判断するのか、というのが大きな問いになります。パフォーマンスを外から測る方法もありますが、チームの中のメンバーがチームをどう思っているかということが非常に重要なポイントとなります。チームのパフォーマンスについて、何が問題でどう改善するかというポイントをメンバーが見つけていくワークショップと思ってください。ポイントは、1カ月に1回など定期的に絶え間なく行っていくことです」と述べた。
プロジェクトチームをチェックする要素は8つ。チーム内外の折衝を行いプロジェクトの結果に責任を持つ「フルタイムオーナー」、役割と責任が明確になった「バランスのとれたチーム」、チームの状態などの「共通認識」、事業やユーザーに対する「価値と指標」、デモンストレーションやテストによる「概念実証」、プロジェクトの概要をまとめる「ワンページャー」、リスクや複雑さなどの「管理された依存関係」、そして、プロジェクトの過程で「ベロシティ」を達成できているかどうか。
これらの指標について、チームメンバー全員がそれぞれの良し悪しを親指の向きの3段階で評価していく。これを月に数回行い、継続していくことで、指標の変化がわかる。
皆川氏は「皆の評価を集計して結果について話したり、一人ひとりの評価についてディスカッションしたりしていくことが非常に重要です。議論が上手でない傾向のある人たちには、たとえばリアルな場であれば、ぬいぐるみを投げて受け取った人は必ず意見を述べる、というルールで対話をしていきます。ファシリテーターの人のスキルがとても重要になり、オンラインミーティング中心になってさらにその重要性が増しています」と語った。
チームメンバーとのディスカッションでファシリテーターが注意すべき点もいくつかある。「私ひとり参加しなくてもいいだろう」といった社会的手抜き、単なる好き嫌いなどによる感情的対立、声の大きい人の意見に左右されてしまう、集団圧力や同調行動などだ。もちろんファシリテーターだけでなく参加メンバー全員にこのような注意点は周知しておきたい。