エンジニアからプロジェクトマネージャーへの転身で見えたもの
――今中さんのこれまでのご経歴についてお聞かせください。
もともと親の仕事の影響でコンピュータには親しんできたので、その延長線上でコンピュータを使って仕事をしようと考え、エンジニアになりました。はじめはシステムエンジニアとして携帯電話端末の基盤・制御系のプログラム開発に従事し、ハード側の職人さんと一緒に16進数までさかのぼって調整し「品質を作り込む」という体験をしました。今は既存のものの掛け合わせでスピーディに価値をつくることに重点が置かれがちですが、基礎技術にさまざまな叡智が込められていることを実感できたのは、今でも技術への憧憬というか、尊敬につながっていると思います。この仕事はどうしても顧客の方ばかりを向きがちなので、そうした感覚が根底にあるのは大切なことだと思います。
その後、インフラ事業のベンチャーにて新規事業立ち上げに従事し、代表取締役の肩書をもちながら、営業と開発を両方行うという、なかなかタフな仕事の仕方をしていました。ここで、私のプロジェクトマネージャーとしての心構えというか、「やり遂げたうえで確実に成果につなげる」という信念が生まれたのではないかと思います。
2016年にリテールテックのリーディングカンパニーを標榜する株式会社エスキュービズムにエヴァンジェリストとして参画し、後に開発本部長となって、ORANGEを活用したシステムの構築を中心にさまざまな案件に携わってきました。
当初はエヴァンジェリストという形で、エスキュービズムのアンバサダー的な役割でした。その後、開発本部長として40人ほどの部下を抱えたものの、マネジメントよりも顧客に接していたいと考え、役職を離れてプロジェクトマネージャーとしてひとり立ちし、現在のプロジェクト本部の本部長となりました。エスキュービズムに入ってすぐにプロジェクトマネージャーとして仕事ができたわけではなく、希望した上で異動させてもらったという経緯があります。
今となっては浅はかですが、当時はプロジェクトマネジメントは基本的に同じで、規模が大きくてもやることは同じだと思っていたんです。でも実際には、毎回大騒ぎになり、なんとかやりきり……というのを繰り返しながら、自分の力を蓄えていったというところですね。
プロジェクトマネージャーというと世間的にはスマートなイメージがありますが、振り返ってみると、我ながらかなり泥臭く仕事をしてきたと思います。上流工程に携わるためのスキルを選択して身につけたというより、実際に案件に対峙して「どんな方法をとってもやり遂げる」という意思を持ち、そのためにあらゆる武器を使っていくことが大切なのではないかと思います。使い方を覚えてから使うというより、使ううちに使い方を覚えるというところでしょうか。
「つくってオシマイ」ではない共創の現場、上流工程の喜びとは
――プロジェクトマネージャーとして上流工程に関わることで、どのようなことでやりがいや楽しさを感じられますか。
人それぞれだと思いますが、私は「共創の喜び」に尽きると思っています。社内はもちろん、顧客や外部開発パートナーと連携して価値を創り上げる。やり切るというより、何よりシステムが”稼働する”ことが重要で、それによって新しい価値を創出し、顧客とともに新しいステージにたどり着いた時に一番喜びを感じます。とはいえ、その喜びを最後に味わえるのは、とにかく大変な思いをしているからでしょう。顧客の課題を理解し、課題解決のための提案をするのはそう簡単なことではなく、冷や汗どころか大汗をかきながら取り組んでいます。
例えば、かつて担当したふるさと納税サイトのプログラムでは、倍々で急成長していたサービスだったこともあり、次の繁忙期にはダウンしないよう提案を行うことになったんです。しかし、同じ10倍でも10を100にするのと、100を1000にするのとではシステムもプログラムも全く異なります。単にサーバーを増強すればいいというものではないので、レベル感や採用する技術がすべて変わるというところを説明し、その上で期限までにやり切るという、それはハードな体験をしました。最終的には期限に間に合わせ、現在、同分野では国内最大級のサービスとして稼働しています。
こうした難易度の高いプロジェクトを円滑に推進していくためには、顧客はもちろんですが、社内や外部パートナーとの関係構築にも神経を使います。正直、そこは難しく、大変だからこそ、面白さも感じるところだと思います。特に「つくってオシマイ」ならともかく、顧客のパートナーとして伴走していくためにもおろそかにはできません。言いにくいところもきちんと伝え、そして実現したからこそ、関係がつながっているのだと思います。ステークホルダーとして深く入り込むからこそ、時に大きな責任を負うこともあるので、その覚悟は必要でしょうね。また、プロジェクトで得たノウハウを自社に蓄積するだけでなく、関係者へ共有することでチームとして強くなっていくことも、この仕事の醍醐味だと思います。