スマートテレビの開発を機にプラットフォーム開発を志す
森本氏とともにセーフィーを創業したCEO 佐渡島隆平氏と、取締役 下崎守朗氏は、ソニー木原研究所からスピンアウトしたモーションポートレートの出身。森本氏自身はソニーで10年勤務したあとに、ソーシャルゲームプラットフォームを提供するGREEで1年以上過ごしてモーションポートレートに入社する。ソニー時代は、システムLSIのマーケティングセールスや、ソフトウェア開発、プロダクトのミドルウェア開発に携わった。
森本氏に転機が訪れたのは、スマートテレビ「Google TV」のプロジェクトだ。このときの経験から、自社のサービスやプラットフォーム作りに興味を持つようになる。「Google TVは、Android OSが主役です。Googleにとっては、ハードウェアベンダーはソニーでなくてもいいわけです。ビジネスをスケールするには、製品を切り売りするより、継続してサービスを提供するプラットフォーム開発を始めないといけないと思ったのです」(森本氏)
そして、ソーシャルゲームが流行していた頃、GREEがアメリカのソーシャルゲーミングプラットフォームを買収したのを見て、世界中で展開するプラットフォームに魅力を感じて転職する。そこでは、インフラやサーバーサイド開発、モバイルアプリケーションSDK開発に携わった。
その後移ったモーションポートレートでは、ニューラルネットワーク等を用いた機械学習技術をいち早く使っており、それと3Dグラフィックス技術を組み合わせて、画像を認識して3Dモデルを作って動かすサービスを提供していた。
森本氏もそこでエンジニアとしてさまざまな開発をしながら、事業化の課題に直面していた。森本氏は「技術的にはすごく素晴らしいのですが、なかなかスケールするビジネスモデルを構築できませんでした。そこで佐渡島と下崎と私で、クラウドカメラのビジネスを考えました。会社に残ってそのまま事業化する選択肢もありましたが、スピード感をもって事業にコミットできる方法として、起業を選びました」と創業の経緯を振り返った。
さまざまな「現場」のDXを支えるプラットフォーム
セーフィーは、カメラなどのセンサーデバイスを使って撮影した映像をクラウドに保存できるサービス。ユーザーは、スマートフォンやパソコンから、遠隔地の映像を確認できる。使いやすさと高いセキュリティにこだわったプロダクトであり、クラウドの特性を活かして、録画だけでなく、さまざまなシステムとAPI連携できるプラットフォームである。
「映像」に焦点を当てたプラットフォームの開発の背景に関して森本氏は、「人は生活のなかで視覚情報に頼る部分が多いです。視覚によっていろいろなものを判断していると思いますが、我々の技術を使い、空間的に離れていても簡単に判断できるようになりますし、最終的には人の目を介さずに判断できるようにしていきたいと考えています」と話した。
セーフィーはどのような現場で活用されているのか。森本氏は、聖マリアンナ医科大学病院での新型コロナの診療を例に説明した。セーフィーを活用して、集中治療室にいる患者の様子を遠隔で見ることで、医療従事者のリスクやストレスを最小限にしながら適切な治療を行うことができる。
ほかにも、建設関連の現場監督が現地に行かずに同時に複数の施工現場を担当できるようになった例や、店舗で店員が入力していた顧客属性を映像の解析によって自動的に推定するという使い方なども紹介した。さまざまな「現場」のDXを実現しているのだ。
「実際に現場に行かないと見えてこないことも色々あります。たとえば、飲食小売店に設置されたルーターの上に荷物が置かれてしまって、通信状況が悪くなるといったこともありました。また、改善要望の裏に本質的な課題があったりしますので、我々は現場を非常に重視しています」(森本氏)
セーフィーは、カメラやセンサーのデバイスに加え、Webフロントエンド、モバイルアプリ、クラウド側のインフラやアプリケーション、AI、外部と連携するAPI、データ分析、業務システムなど、さまざまな領域のテクノロジーを扱っている。プラットフォームを展開するからこそ、必要となる技術であるが、ビジネスとしてはこれが参入障壁となっており、クラウド録画サービスのシェアトップ(47.5%)を走れる理由でもある。さらに森本氏はプラットフォームにこだわる理由のひとつとして、外部のパートナーと連携した課題解決も挙げた。
「我々は、お客様の課題を広く解決したいと思っています。たとえば、顔認証ベースのサービスは我々で開発しており、その結果からさまざまな付加価値情報を抽出することができます。ただ、画像を利用した課題解決のニーズは他にもさまざまあります。これを1社でやるのではなく、プラットフォームとして、さまざまなパートナーを巻き込んで、補完しあいながらさまざまな現場の課題を解決していきたいのです」(森本氏)
魅力的なサービスとしての核がなければ、プラットフォームは成長しない
プラットフォームに対するこだわりを持つ森本氏だが、そのためには誰もが使いたくなる、核となるクラウド録画サービスに磨きをかけることに力を注いでいる。たとえいろいろなことができるプラットフォームを用意したとしても、そこで価値が生み出されないことには誰も利用しないと考えているからだ。
その甲斐もあって、セーフィーのクラウド録画サービスは成功し、プラットフォームとしても成長しているが、サービスの要因は過去の失敗にあるとし森本氏は語った。
「もともとはBtoCの録画サービスとして開発していたので、一般消費者向けを想定して徹底的に使いやすく、安価に提供できるようにしました。その後、BtoB領域に転換するのですが、その際にはエンタープライズ向けの品質にこだわりました。そして結果的に、BtoB品質のものをかんたんに安く使えるプロダクトにすることができたのです」(森本氏)
当初BtoC向けの開発での苦労は無駄にならず、さまざまな業界の現場で広く使われるようになる下地となったのだ。しかし、クラウド録画サービスのシェアトップという成果は得られたが、まだ成長中で、これから乗り越えなければならない課題は山積みだ。
新機能の開発ニーズも大きいため、エンジニアの採用を強化して開発をスピードアップする必要がある。エンタープライズ品質で提供している以上、アップデート時にサービスを止めるわけにもいかない。プライバシー情報を扱うため、高度なセキュリティも必要とされる。通信状況が悪くても映像が途切れることのないように保存したり、品質を保ちながらも費用を抑えたプライシングをしたりするなど、弛まぬ努力が続けられている。
多様な技術・キャリアパスを経験できるエンジニア組織へ
このように、さまざまな領域の技術において強いこだわりを持ったプロダクトづくりをしているセーフィーは、エンジニアにとっては多様なスキルを得られる環境と言える。
現在、セーフィーのエンジニア組織は、職能型で分かれており、担当領域は決まっているが、今後はエンジニア個人の価値を高められるよう、複数の領域にチャレンジできる組織・制度づくりを目指している。エンジニアのスキルアップのためにも、各分野のオンボーディングコンテンツの作成も開始した。森本氏は「例えば、バックエンドとデバイスを一緒に開発する人や、フルスタックエンジニアを目指す人が出てくればいいなと思っています」と語った。
エンジニアのスキルや実績に応じて評価する仕組みも重要だ。フルスタックを目指す人なら、フルスタックエンジニアが評価し、1つの領域を極めたいなら、その領域の専門家が評価する。開発だけでなく、プロダクトを管理するような立場なら、開発全体を取り仕切る人が評価する。森本氏は「多面的な役割にも役割を定義し、正当に評価をする仕組みを作りたい」と、評価の重要性を説いた。
エンジニアとしてセーフィーで働く醍醐味を森本氏に聞くと「先程紹介させていただいた通り技術領域が広く、かつ大容量(ペタバイトレベル)のデータを扱っており、それらのデータを扱うためにシステムの規模も大きくなっています。これらを高品質、かつ高セキュアに管理しつつ新規開発をやっていかなければならないところがチャレンジングですが、そこが面白いところでもあります。また、自分たちのプロダクト、サービスが、実際にお客様に使っていただいて、課題の解決に繋げられているという実感が得られるところもやり甲斐に繋がっています」と答えた。
上場を果たしてさらなる成長フェーズにあるセーフィー。従来のメイン顧客である小売りやサービス、建設だけでなく、今後はオフィスビルやインフラ、製造業、物流や個人、そして海外展開と、さまざまな領域への展開を計画している。
エンジニアにとっては魅力的なチャレンジができる環境あり、多面的なキャリアパスのための教育や評価も整備されつつある。スキルを磨いて社内外でステップアップしていくのもいいし、プラットフォームを活用して、社外パートナーとして起業する道も考えられるという。森本氏は最後に次ようにコメントした。
「プロダクトを作って終わりではなく、社会課題に応じてさらにプラットフォームを成長させていきたいという熱意を持たれている方がどんどんセーフィーに参画してきてくれたらと思っています。セーフィーのプロダクトは、技術領域が非常に広く、無停止や高いセキュリティへのこだわりなど、技術的な難易度も高いものが多いです。そのなかでのエンジニアとしての成長の機会・可能性は無限にあると感じています。人は、人生の中で多くの時間を仕事に費やしています。だからこそ、セーフィーで頑張ってくれているメンバーがより成長を実感し、楽しく仕事ができるような環境をこれからも作り続けていきたいです」