デジタル業界から医療業界への事業継承の背景を知る
講演の冒頭、モデレーターの株式会社ギブリー 執行役員 兼 HR Tech部門 採用ソリューション事業部長 山根淳平氏がエンジニアの採用から育成に役立つコーディング支援ツール「Track」を紹介した。
Trackは、DX人材やエンジニアの採用・育成・評価のためのHR(Human Resorce)プラットフォームだ。採用から、社内に入ってからの活躍、オンボーディングで戦力化するところまでをフォローするHRツールである。200社以上でコーディングテストを監修し、年間20万人の受験者数は国内No.1であるなど、エンジニアの組織作りに関連する実績も豊富だ。
本講演の当事者であるharmo(シミックグループ)はTrackのユーザー企業である。続いて、harmo代表取締役Co-CEO 石島 知氏が「ゼロからのITエンジニア組織構築」をより良く理解するための背景情報として、シミックグループとharmoの紹介、ソニーからの継承についての説明をおこなった。
シミックグループは、創業1992年、社員7,500人以上を有する医療事業の企業で、医薬品開発業務の受託などで新薬開発の支援を行っており、国内新薬開発の約8割に関わっている。臨床開発モニターは1,200名以上を抱えており、医薬品開発の中では日本最大級の規模だ。シミックグループは製薬会社の支援を中心にしていたが、より患者に向けのサポートができないか、ヘルスケア領域で活躍できないかという思いから、直接患者の役にたつharmoの電子お薬手帳を事業として継承した。
harmoは2008年にソニー内のR&Dとしてスタートし、2013年に事業化に向けての動きが出て、石島氏、現harmo株式会社(シミックグループ) DevOps部長/電子おくすり手帳 副本部長 狩野 真也氏の両名が参画し、2016年に無事、事業化されたプロダクトだ。harmo自身は、現在2つの柱を持ち、1つは40万人のユーザーがいる電子お薬手帳、もう1つはワクチン接種管理で、こちらは自治体や職域接種といったB2B向けのサービスとなっている。
2019年、ソニーからシミックグループへの事業継承が行われたが、石島氏はその理由は3つあると言う。1つ目は、シミックグループが持つ医療機関、薬局、製薬会社へのチャネルが、電子お薬手帳の普及に役立つこと。2つ目は、医薬品開発業務との関係から、薬の情報などをサービスに組み込みやすい、つまりシナジーを起こしやすい環境がある。3つ目は、医療業界とデジタル業界の時間感覚の違いだ。ソニーでは3カ月に1回結果を出すというスタイルだが、新薬開発は10年かかることも稀ではない。
石島氏は「会社にこうした時間軸への理解があるほうが落ち着いて開発ができると思いました」とシミックグループへの事業継承の背景を語った。また、継承先としてシミックグループを探してきたのは石島氏で、ソニーからの移動も違和感なく実践された。
ゼロからエンジニア組織を作る、とは
会社として、まったく経験値のないITエンジニア組織を構築するという困難な業務にどう立ち向かったのだろう。モデレーターの山根氏は「エンジニア組織そのものや文化を未経験の企業に導入する部分では、理解される部分や衝突する部分など、相当の苦労があったと思います」として、石島氏と狩野氏に導入の経緯を聞いた。
石島氏は、まずシミックグループの中にエンジニアへのリスペクトがあったことを述べた。「エンジニアが誰もいなかったからでしょうか、リスペクトをとても感じました。エンジニアってわからない、でも支援できることはするので自由にやってほしい」という雰囲気を感じたと言う。とはいえ、ラフな格好で業務する文化がないシミックグループのメンバーからは「なんで社内でスリッパなんですか?」といった質問も受けた。石島氏たちは、ソフトウェアエンジニアとはそういう文化を持つ層であるとシミックグループ側の人たちに説明して、理解を得ていった。
文化の異なる者同士ではあるが、事業としてのミッション、ビジョン、バリューである「なぜ我々がやるのか」「何をやるのか」「どうやってやるのか」については、両者が徹底的に議論した。石島氏は「上流がぶれると下流は大きくぶれてしまいます。上流をきちんと行うことで、その後の行動要件もきちんと決まっていきます」として、最初に決めることの重要性を主張した。
ビジョンの共有と、コーディングテストによる採用活動を展開
ミッション、ビジョン、バリューが決まったら、石島氏と狩野氏は、組織作りのために仲間集めを始める、人材採用だ。採用は面接とスキルチェックの2つで行われた。
狩野氏は「ミッション、ビジョン、バリューを作ることによって、私たちはこういうことがしたい、なぜやりたいのかを、採用のときにしっかり面接者に言えるようになりました。私と石島が2人で初めから面接に向かい、ビジョンに共鳴していただけるかを判断、そしてスキルチェックではコーディングテストを実施して、この両面で採用を進めていったのが最初の1年ぐらいでした」と語る。
この間、成功した企業に採用についてヒアリングなども行った。狩野氏は、成功した企業から「エンジニアを採用するなら人事部に任せるな」と助言を受ける。エンジニアリングマネージャーや事業の責任者が、最初から出てくることが非常に大事だと言われた。人事部だけに任せてしまうと、事業への思いが語れない、アーキテクチャの話ができないなど、お互いの時間が無駄になってしまう。こうして石島氏と狩野氏は採用を進めていき、当初5、6名の採用ができた。
しかし十分配慮したつもりでも、ゼロからのスタートではどうしても採用したエンジニアとの不一致が生じてしまう。採用メンバーの中で、カルチャーの違いとかキャリアパスへの考え違いが見えてきて、何人か退職者も出た。
しかし、人数は減ったがビジョンを共有するメンバーが残ることになり、そこからエンジニア主導の仲間集めをしっかり進められるようになった。狩野氏は、「エンジニアも面接に入ってもらえるようになりました。そこからはエンジニアが、新しいメンバーの行動を見るなど、徐々にエンジニア主導の仲間集めになっていきました」と一度メンバーが絞られたことが功を奏したと述べた。
コードを通じたコミュニケーションで技術スキルを知る
ここで山根氏から、面接時のコーディングテストについて、ソースコードを見て何をどう判断しているかという質問が出た。
狩野氏は、コードテストについては、その結果を面接者と面接のその場で話をすると言い、点数をつけるのではなく「時にはコードを見ただけで、この人のJavaScriptはすごい! とわかって、そこから面接者にリスペクトが生まれることもありました。だから面接というよりも、コードを通じたコミュニケーションをする感覚で、とても面白かったです」と語った。コードの書き方については、同社がヘルスケア系のプロダクトを扱うことから、コードを素早くプロトタイプ的に書くより、プログラムコードの1行1行をしっかり丁寧に扱えるかどうかに留意した。
山根氏は最後の質問として、エンジニア組織づくりのアドバイスを求めた。
狩野氏は、内製化に注力することが組織の活性化につながるとし「内製化するからには、中のエンジニアが事業をどうドライブしていくかに、どれだけコミットできるかが鍵になると思います。コミットできる環境があるなら、エンジニアが率先して事業を進めていける組織にすれば、エンジニアも楽しく没頭して参加できる。これは事業にとってもメリットがあります」と提言した。
石島氏は、狩野氏が以前言った「組織作りもエンジニアリングだよね」という言葉が印象的だったと語った。目的があって、人々を集めて、達成のために技術を生かして一つのプロダクトを作る。必要な人材は、要件を定義して選抜する。その後、組織に馴染む人もいれば、そうではない人もいる。
「こうした流れは、開発プロセスと似ていると思っています。ですから結構楽しめるのではないでしょうか。私自身、組織作りって本当に楽しいなと思いますし、エンジニアリングなら得意な人が実は多いと思います。私は、狩野さんとか我々のエンジニアを見ていて非常に思います」(石島氏)。
Trackを使えば、実務に近い形で技術力の測定ができるので、エンジニアと会社の両者が互いに技術力を正しく見極められミスマッチのない仲間集めが期待できる。自分が正しく評価された状態で、その会社に入れたなら、入社後業務に邁進できる。山根氏は、サンプル問題を知りたい、コーディング試験を受けてみたいなどの要望があれば、環境の用意があるので、興味あればぜひ声を掛けてほしいとアピールした。
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