UI/UXに対する意識、重視するマインドをどう高めていったのか
──次のテーマは「UI/UXの歴史」です。開発者とデザイナーの協業は、UIUXチームができた当時からうまく進められていたのでしょうか。
古澤:正直、最初はうまく進められていなかったです。そもそも20年前はUI/UXという概念がなく、開発側は機能を実装することが最優先であり、これ以上プロセスを増やすことは避けたいという状況でした。
竹原:すでに確立している開発プロセスに工数負担を増やすことなく、どうUI/UXの観点を組み込んでいくのか。開発者の立場でも具体的な歩み寄り方がわからない状況でした。また、ユーザーが「業務として」何をしたいかを改めて共有する手間もあるし、それをUI/UXチームに理解してもらえるかという不安もあったと思います。
古澤:そのイメージを払拭するために試行錯誤しましたが、やはり開発チームにUI/UXを認知してもらい、協力し合いながら改善していくことが重要だと実感。そこでUI/UXを知ってもらうための資料をたくさん作成してプレゼンしたり、勉強会を開催したりしました。
SlackにUI/UXやデザインに関する相談窓口を作り、いかに開発者に工数をかけずにサポートできるかといったアプローチも行いました。まさに忙しい職人に認めてもらおうと必死な弟子のようでした。
竹原:開発者としては、前提となる業務や機能などの説明をするのに時間がかかるので、デザイナーにUI/UXを相談するのは少し気が引けていました。しかし、Slackの相談窓口は気軽に聞くことができてよかったです。UI/UXチームは前提となる条件や状況を理解しているので、ライトなコミュニケーションだけで適切で丁寧な助言をしてくれましたね。
古澤:一方で、Slackでの相談はリリース直前、実装後の相談が多かったので、改善できる範囲が狭く、スタイルのアドバイスしかできないという課題も見えてきました。
そのため、実装前の開発プロセスの上流から設計段階からデザイナーが入れるように、機能企画書(カタログ)レビューや設計レビューから参加させてもらうようにしました。今では、新規機能開発や新サービス設計時は、設計段階から呼んでもらい、実装前にUI/UXを設計するお手伝いをしています。
これからのUI/UXチームとして目指すこと
──4つ目のテーマ「これからのUI/UXチーム」では、チームとして今後は何を目指していくのか聞かせてください。
大川 澪(以下、大川):現状を表現すると、「やっと職人が振り向いてくれた」という感じでしょうか。思想の啓蒙活動を重点的に行い、設計からデザイナーが関われる体制の構築ができてきた段階です。これからは開発者と同じ方向を向き、COMPANYという製品の課題や未来の話ができると考えています。
とはいえ、私たちが製品のユーザビリティに影響を及ぼせている部分は多くはない状況です。"COMPANYをもっとよくしたい!その価値をお客様に届けたい!"というミッションのためには開発者の力が不可欠。UI/UXに割くリソースを最小限にしつつ、より良いUI/UXを実現する仕組みを我々デザイナーが作っていく必要があると言えます。
古澤:我々デザイナーができることとしては2つ。1つは、デザイナーが入ることによって発生する「説明コスト」を極限までなくすこと。開発者と同じレベルで製品の話ができるように、「業務の理解」を引き上げる必要があります。
課題の温度感などを一緒に把握することで、コミュニケーションコストを下げるために必要な「現場理解」も重要です。そのために自分が担当している開発者チームのミーティングや、Slackのチームチャンネルにも参加しています。最近は開発締め後に雑談会を開いて、デザイナーと開発者が雑談をする場も設けています。
扈:2つ目は、デザイナーが入ることで開発者のアウトプットの質を最大化することです。これを実現するには、開発者に「自分が考えるよりも早くて、よりよいものができる」と思わせるデザイナー自身の実力が必要です。
まずデザイナー個人のUI/UXデザインスキルを磨き、「UI/UXに困ったら相談できる駆け込み寺であること」「良いUI/UXができるデザインシステムの構築」、そしてデザインが製品に反映されるまで、「オーナーシップをもって見届けること」が大切だと感じています。
今回のテーマでもある歴史ある製品のデザイナーだからこそ必要な力とは、「妥協点を探りながら最適解を見つけていく力」と「説明のできるデザインを常に提案し続けること」だと思います。
──最後に、「伝統的なシステム開発職人の良きパートナーになるために」の答えを教えてください。
大川:我々なりのアンサーは、「職人の作る製品や、置かれている状況をデザイナーが職人と同じくらいよく理解すること。その上で、職人が製品を作りやすい環境をデザイナーが柔軟に作っていくこと」です。
歴史ある製品だからこそ、デザイナーは柔軟にフローやルールに縛られることなく、開発者とともにオーナーシップを持って製品をよりよくしていきたいと思います。