賑わいをみせたスタートアップや業界別のソリューション展示
AWS Summit Tokyo 2023は幕張メッセ 国際展示場で開催された。広い展示ホールにセッションから展示まで、全ての要素が“デプロイ”されていた。展示ホール周辺をセッション会場が囲み、中央に各種の展示ブースが効率良く配置されていた。
会場を歩き回った順に、ざっと展示を紹介しよう。一般入場者の入口からエレベーターを降りると、まず目に入ってくるのがAWS Startupsエリア。ここには未来のホームやオフィスに関した展示ブースが並んでいる。例えばmui Labではアレクサと連携する「muiボード」を展示していた。木製で温かみがあるボードに、照明の調節やメッセージのやりとりなどのスマートホーム機能を搭載している。
そのすぐそばには「Ask an Expert / Ask the Speaker」があった。横一面、大きなホワイトボードがあり、その前で何人ものエキスパートと参加者が図を描きながら熱い質疑応答を繰り広げていた。
「AWSをはじめよう!クラウド導入支援コーナー」を過ぎた先に見えるのは、AWSの業界別ソリューションのエリア。製造業向けIoTソリューションでは、振動を検知する数センチほどのセンサーが展示されていた。このセンサー(Amazon Monitron)は何らかのモーターやポンプなどの装置に取り付け、振動と温度の変化を元に装置の異常を検知し、点検作業や停止時間を減らすことに役立てる。
また、工場向けには、各種生産設備から収集したデータをクラウドに集約し、稼働状況を可視化してダッシュボードに表示するシステムのデモやシステム構成図が展示されていた。
自動車業界向け(AWS for Automotive)のブースでは、顧客支援に役立つシステムなどが展示されていた。例えば自動車オーナー向けアプリだと、電気自動車のバッテリーはじめ各種部品の状態が可視化されていて、タイヤなど交換が必要なものはAmazon Garageから購入することも可能だ。
AWSが近年力を入れているヘルスケア・ライフサイエンス業界のブースでは、AWS re:Invent 2022で発表されたばかりのAmazon HealthLake Imagingが展示されていた。これは医用画像の国際医療標準規格であるDICOMを扱い、医用画像をペタバイト規模で扱えるストレージサービスとなる。またゲノムなどのオミクスデータを保存、クエリ、分析ができるAmazon Omicsと、Amazon SageMakerやAmazon QuickSightなどを組み合わせることで大規模なゲノムデータ解析を行うデモもあった。
展示ブースでは、動く動物のぬいぐるみを用いた動作検知のデモが行われていた。Amazon Rekognition Custom Labelsを活用し、少数のデータセットを追加学習させることでモデル作成し、実験中の特定の動物動態を自動検知し、研究者の負荷を軽減するシステムとなっていた。
流通(小売)業界向けのブースでは、スマートなショッピングカートが注目を集めていた。カートについたディスプレイを通じてバーコード読み取りや商品認識の自動化だけではなく、商品の関連情報を知ることもできる。例えば食材を選んだら、その食材を使ったレシピを紹介するなども可能になると言う。説明員は「買物が楽しくなりますよ!」とメリットをアピールしていた。
AWSの現在を知る、独自開発のハードウェア展示や企画
AWSが自社開発する各種ハードウェアも展示されていた。どのような処理であろうとも、AWSサービスを使う時はどこかのデータセンターで、何らかのサーバーが稼働している。と、頭では理解できていても、その姿を目にすることはなかなかない。AWS Summit展示ブースでは実際に使われているハードウェアが多数陳列されていて、貴重なAWSの実体を目にすることができた。
例えばAmazon EC2インスタンスの裏側で稼働している独自開発のネットワークスイッチや、独自の仮想化基盤であるAWS Nitro Systemで利用されているカード、さらには独自開発のプロセッサやアクセラレータとしてAWS Graviton3、AWS Trainium、AWS Inferentiaのチップが展示されていた。
また、AWSのクラウドサービスを自社環境に延伸し、一部をオンプレミスで実行するためのAWS Outpostsファミリーについても、ラックやブレードサーバーが展示されていた。
Developer Loungeでは、身近なテーマで作成されたガジェットがいくつも展示されていた。例えば「きのこの山」と「たけのこの里」を画像からより分けるガジェットは、Amazon SageMakerで作成した機械学習モデルからなる推論コンポーネントをAWS IoT Greengrassに作成して、カメラからの画像で推論する仕組みとなっている。推論結果はAWS IoT Core経由でサーボを動かして分ける。機械学習モデルの学習は、「きのこの山」と「たけのこの里」の画像をそれぞれ200枚ほどで行った。
Developer Lounge内の「Community Kiosk」ではAWS関連コミュニティのシールがずらりと並んでいた。AWSには地域やテーマごとに多数のコミュニティがあり、エンジニア同士の助け合いや情報交換が盛んだ。どこかに所属すると世界が広がるだろう。
また、Developer Loungeでは好きなプログラミング言語アンケートが行われていた。多くの来場者が投票し、最終日の午後にはPythonが圧倒的な票を集めていた。
AWS DeepRacerリーグ「Summit Circuit」も開催されていた。実際のレースで走行させるのは1/18スケールの四駆自動車となるが、会場では巨大サイズの模型が目を引いていた。
イベント2日目の夕方には、社会人向けDeepRacerリーグは終盤に差し掛かっていた。かなりの接戦で、トップのタイムは7.516。すでにこの時点でDeepRacerリーグ世界記録が何度も塗り替えられていた。
この後にトップと同タイムが出る異例の事態となったため、サドンデス方式で優勝者を決めることになった。筆者がブレイクアウトセッションを聴講していると、背後から大歓声が聞こえてきた。恐らくDeepRacerリーグで優勝が決まった瞬間だったのだろう。こうした体験ができるのもリアル開催ならではである。
なおAWSやAWSパートナーではなく、AWSの顧客事例の展示ブースもあった。例えばリコーでは仕事現場で人間とAIのインターフェースとなるデジタルヒューマンが展示されていた。自社の業務データで学習させることで、自社業務に長けた対話AIを実現した。どのようなAWSサービスを組み合わせているのかをパネルなどで展示していた。
アーキテクチャ道場2023、設計には問題の切り分けと漸進的な改良が大切と語る
セッションはレベルに応じた技術解説から事例紹介まで、多岐にわたる内容が用意されていた。聴講者はレシーバーとイヤホンを通じてスピーカーの声を聞くのが特徴的だ。レシーバーは前の人の椅子にぶら下がっているのを使い、聞きたいセッションにチャンネルを合わせる。イヤホンは入場時に1人1つ手渡される。
人気セッションの1つ「アーキテクチャ道場 2023」を聴講した。アーキテクチャの考え方が学べるため、どのクラウドサービスでも応用が利く。ここではアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 チーフテクノロジスト 内海英一郎氏が2つのお題を出し、同社 技術統括本部 インターネットメディアソリューショングループ ソリューションアーキテクト 竹本将気氏と、同社 技術統括本部 技術推進グループ シニアソリューションアーキテクト 石井陽介氏が解決策を理由とともに説明した。
お題1:オンラインボードゲームのプラットフォーム
オンラインボードゲームの新作公開に向けてゲームプラットフォームのバックエンドをオンプレミスからAWSへと刷新する。プレイヤーの増減に弾力的にサーバーフリートのリソース調整できるようにするには、コントロールプレーンをどのように設計するか。
お題1に回答したのは竹本氏。まずは問題を「サーバーとセッションのマッピング」と「オートスケーリング」に分割して整理した。前者はセッションの割り当てシーケンスで生じる課題を考慮し、インスタンスをツリー構造で管理する。後者はインスタンス単位でオートスケーリングするように解決する方法を考えた。
お題2:クラウドに移行したサービスのモダナイゼーション
すでにオンプレミスからAWSにリフトしたサービスがあり、近年技術的な課題や開発・運用負荷が高まっていることから、サービスのモダナイゼーションを進めることにした。旧サービスから新サービスへワークロードを移行する時、システム開発・運用チームはどのような手法で新サービスへと接続先を切り替えるようにするのがいいか。
お題2に回答したのは石井氏。現場からさまざまなリクエストがあるものの、主な課題を「サービス機能に関する要求」、「移行方式に関する要求」、「開発・運用容易性に関する要求」に分けた。また移行のフェーズを、インターフェース移行、アプリケーション移行、データストア移行、クライアント移行の4つに分けて実施するように考えた。
両者の解説が終わると内海氏が全体を振り返り、どちらも問題を整理してからアーキテクチャ設計に臨んでいることを挙げた。複雑なシステムや要件であるほど、問題の切り分けが欠かせない。また「シンプルな設計にすること」と「モデルと実装を分けて設計すること」の重要性を強調した。後者は、まずはアーキテクチャの骨組み(モデル)を考えてから、後から具体的なAWSサービスを割り当てていく流れになる。AWSサービスはアップデートが頻繁にあるので、最初から使用するAWSサービスを特定しないほうがいい。
最後に内海氏は「高いスケーラビリティ、耐障害性、安全性、運用性、コスト効率を備えた優れたアーキテクチャを実装することは皆さんのビジネスに必要不可欠です。ぜひAWSのベストプラクティスを活用してください」と述べ、アーキテクチャ設計で有用なリンクをいくつか紹介してセッションを締めた。
紹介されていたリンク
6月8日開催!初心者向けイベント「AWSome Day Online Conference」
「AWSome Day Online Conference」は、AWS クラウドジャーニーのはじめの一歩として、AWSクラウドに関する基礎知識を3時間で学ぶ無償のオンラインイベントです。AWSインフラストラクチャ、コンピューティング、ストレージ、データベース、ネットワークやセキュリティといったAWSのコアコンセプトやAWSの主要サービスを段階的に学ぶことができます。
7月13日開催!初心者向け大規模イベント「AWS Builders Online Series」
「AWS Builders Online Series」は、AWSの基礎を幅広く学ぶことができる、約3時間の初心者向けイベントです。AWSの基礎から生成系AIの活用、分析、サーバーレスアーキテクチャ、インダストリーソリューションなどを学ぶことができます。各セッションではデモを通じてAWSサービスの使い方を実際に体験し、理解を深めることができます。AWSに関する基礎知識を習得し、AWSを活用していくための知識を身につけたい方は、ぜひご参加ください。
6月22日、23日開催!中・上級 Developer向け「AWS Dev Day」
「AWS Dev Day」は、AWS国内イベント最大の開発者向けテクニカルカンファレンスです。今押さえておくべきクラウド開発のためのテクノロジーや手法について、技術解説セッション、ユーザー事例、デモ、ライブコーディングなど、60を超えるセッションを通じて網羅的に学ぶことができます。また今回は、ベルサール渋谷ガーデンにてリアルイベントとして開催され、開発者同士が交流できる「ネットワーキングエリア」が登場します。多彩なセッションとネットワーキングエリアを通じて、学びを深め、同時に開発の楽しさを再認識しましょう!