クラウドのトレンドは「活用」から「最適化」へ
今や多くの企業が情報システムのプラットフォームとして活用しているクラウドサービス。2018年に日本政府が「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」の中で、クラウドの利用を第一候補として検討する「クラウド・バイ・デフォルト原則」を提唱したことも、クラウドサービス活用への拍車をかけた。2022年12月、同基本方針はクラウドサービスを第一候補とするだけではなく、クラウドを適切に利用するためのガイドラインへとアップデートされた。今やクラウド活用は当たり前で、「クラウドの適切利用」に向かう時代に入ったと言える。
クラウドサービスというと、多くの人はAWSやGoogle Cloud、Azureなどのハイパースケーラーを頭に思い浮かべるかもしれない。確かにこの3サービスが多くのシェアを占めている。そんな市場に今年3月、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)のリーダー的存在であるアカマイが参入した。
同社クラウドコンピューティング事業のCTOを務めるのがジェンキンス氏のキャリアはコンサルティングファームのエンジニアから始まった。Google Cloudで9年間働いた後、動画共有サービス「TikTok」を運営するByteDanceではエバンジェリストとして活動。そのキャリアの大半をクラウドコンピューティング業界で費やしてきた人物である。そんなジェンキンス氏にとって、現在のクラウドコンピューティングのトレンドはどう見えているのか。
「昨今、最も話題に上っているのがクラウドの利用の最適化です」とジェンキンス氏は話す。最適化に注目が集まるのは、経済的な問題だけではない。企業はクラウドを活用することで、ワークロード管理においてメリットを享受してきた。一方、ハードウェアの価格が下がっていることに比べると、クラウド活用はコスト削減につながっていないのではと感じており、クラウド活用にかかるコストを見直す企業が増えているという。
「どこにワークロードを置けば最適に実行できるのか考え、クラウドサービスを選択する企業が増えています」(ジェンキンス氏)
例えばクラウドベンダー独自の技術を採用しているプラットフォームにワークロードを置いてしまうと、容易に移植することはできない。そこで各クラウドベンダーは、移植が容易にできるよう出口戦略の充実を図っている。
最適化のカギを握るのは「マルチクラウド」
第二のトレンドとしてジェンキンス氏が挙げたのは「マルチクラウド」。これも、大きく見るとクラウドの最適化の流れの一つと言えよう。今や日本の大きな組織ではマルチクラウド環境が進んでいるが、「各アプリケーションは単一のクラウド上のみで稼働しており、コンテナでさえも単一のリージョンで実行しているなど、非効率な利用により、管理面やコスト面でさまざまな課題が挙がっている」とジェンキンス氏は語る。
そこで「クラウドネイティブな機能を使って、単一のアプリケーションを複数のクラウドに分散して最適化をしたいと考える企業も増えています。よりユーザーに近いサイトでアプリを運用することで、レイテンシーの軽減に加え、温室効果ガス排出量の削減にも貢献できるからです」とジェンキンス氏は明かす。
マルチクラウドのメリットはそれだけではない。新しいテクノロジーや機能を迅速に採用できるようになる。クラウドベンダーによって新しい機能やテクノロジーの対応時期は異なる。例えばAというクラウドサービスを活用していても、Aで提供されていないが活用したい機能がBで提供されていれば、Bを採用することができる。マルチクラウド環境を指向しない場合は、その機能が提供されるまで待つか、もしくは自分たちで開発するかの二択になる。
そのほかのトレンドとしてジェンキンス氏が挙げたのは、クラウドと組み合わせたAIやVRのフレームワークの登場である。「エキサイティングなこと。開発者に新しい体験をもたらしてくれるはず」とジェンキンス氏は期待を込める。