関数戻り値の型推論
変数の型推論ができるなら、関数の戻り値の型推論ができたらいいんじゃないか? ということで、C++11では関数の戻り値の型推論もできるようになっています。
関数戻り値の型推論(後置型)[C++11]
ただし、後置型と言って関数宣言において戻り値を引数の後に書くスタイルでのみです。そもそも後置型って何よということで、そこから入りましょう。以下のリストでは、同じ関数を宣言しています。
auto func() -> int { (1) return 100; } auto func() -> decltype(100) { (2) return 100; }
関数の引数リストの後にアロー演算子「->」を続けて、そこに戻り値の型名を書くというスタイルです。今となっては、多くの言語で見かけるスタイルですね。
(1)では関数の戻り値はintであり、この場合のautoは型推論の意味は持たず単なるプレースホルダとして使われます。プレースホルダ……うん、SQLをやったばかりとかならピンと来ますね、要は置き換えのための場所です。型を明示しているので、わざわざautoと書いてタイプ量を増やす必要もないような……。
そこで(2)ですが、C++11で使えるようになったdecltypeを使っています。decltypeは、カッコ内の式の評価結果を意味する型指定子です。declare typeというわけですね。この場合、式の値は整数値なので、整数型すなわちintが採用されます。(1)よりは自動感が出てきたけど、何でわざわざという感じは残りますよね、return文にも同じこと書いてありますし……。
そんなこんなで、ちょっと微妙ということで、C++14ではもっと簡単に書けるようにしよう! ということになりました。
関数戻り値の型推論(auto)[C++14]
C++14では、関数の戻り値としてのautoを指定することができるようになりました。指定も、関数の戻り値に特定の型の代わりにautoを記述するだけです。C++11の後置構文のようなプレースホルダとしての働きではなく、型推論のための指定として機能します。
auto func2() { return 100; // 戻り値の型は整数型と推論される } int main() { auto i = func2(); cout << i << endl; // 100 return 0; }
型推論のルールは基本的に変数と同様です。関数定義では、複数の出口すなわちreturn文が存在することがありますが、このときは全てのreturn文で同じ型に推論できる必要があります。以下のように、2つあるreturn文から推論される型が異なる場合、コンパイルエラーとなります。
auto func3(int a) { if (a == 0) { return 1.0; // 浮動小数点数型に推論される } else { return 1; // 整数型に推論される } }
同じくC++14から使えるようになったdecltype(auto)型指定子を使うと、参照型を返す関数の戻り値を推論できます。
関数の引数のauto宣言
変数宣言、関数の戻り値ときたら、関数の引数もautoにしたいと思うのが人情でしょう。とはいえ、関数にはオーバーロードというものがあるので、推論は容易ではありません。そこで、C++17ではテンプレートの型パラメータにautoを指定できるようにすることで、テンプレート関数について引数の型推論を可能にしています。その前に、「テンプレートって何よ?」という筆者のような方のために、テンプレートの概要を紹介しておきます。テンプレートなら知ってるよ! という方は読み飛ばしてください。
テンプレートとは?
テンプレートは、Modern C++になる前、C++98ですでに導入されていた比較的古い仕様で、JavaやC#などの言語ではジェネリクスとしておなじみの機能です。関数単体やクラスに対して、型パラメータを用いた処理の汎用化を提供します。特に、関数単体に適用できるというJavaにもない特徴を持っているので、汎用性の高い関数を容易に実装できます。
テンプレートを使った関数をテンプレート関数と呼び、定義は以下のようになります。templateキーワードに続けて山かっこ(<>)内に型パラメータを記述し、関数本体の定義を続けます。なお、型パラメータのtypenameはclassとしても同じ意味になります。
template <typename T> テンプレート定義 Tを使った関数定義 関数定義
テンプレート定義にて、汎用的な型Tを定義し、関数定義中で参照します。例えば、2値の大きい方を返す関数getGreaterをテンプレートを用いて定義すると以下のようになります。テンプレートはあくまでもひな型であり、実際の呼び出しに応じてコンパイラが関数本体を自動的に生成(インスタンシエート)します。
template <typename T> T getGreater(T a, T b) { return (a > b)? a : b; } cout << getGreater<int>(100, 200) << endl; // 200 cout << getGreater<double>(1.0, 2.0) << endl; // 2.0 cout << getGreater<char>('A', 'B') << endl; // B
呼び出し時の型パラメータ<int>などは、引数から推論可能な場合には省略できます。また、型パラメータは、カンマ(,)で区切って複数指定可能です。なお、C++11からはデフォルトテンプレート実引数、可変個テンプレート仮引数がサポートされました。
型パラメータだけではなく、値パラメータ(非型パラメータ)を指定することもできます。値パラメータにより、テンプレート関数そのものに引数を渡す、ということも可能になります。
関数の引数の型推論[C++20][C++17]
ここで、C++20で使えるようになった関数の引数の型推論です。テンプレート定義の短縮記法で、基本はテンプレートの値パラメータをautoにするという記述になっています。
template <auto N> auto multiplier(auto x) { return N * x; } cout << multiplier<10>(10) << endl; // 100
C++17でどう書くかということを見ると、C++20の関数の引数の型推論がどのようなものかお分かりいただけるのではないかと思います。C++20では、テンプレートの型パラメータの型もautoになっていた、というわけですね。
template <auto N, typename T> auto multiplier17(T x) { return N * x; } cout << multiplier17<20, int>(10) << endl; // 200
まとめ
今回は、Modern C++の「ここが新しい」のうち、「データ型を明示しないで!」で触れたautoによる型推論を紹介しました。関連する言語仕様も多岐にわたり端折り気味でしたが、その便利さの片りんをお伝えできたのではないかと思います。
次回は、「生のポインタは使わないで!」で触れたスマートポインタを紹介します。