AIは本当にエンジニアの仕事を奪うのか?
次に問題になるのが、3つ目の「言語化能力」である。これは、AIに対応してほしいことを、意図したとおりの結果を返してくれるように伝える技術のことだ。AIに粗雑な指示を出しても意図した回答は返ってこない。なおかつ、AIの回答にはハルシネーションリスクもある。このリスクを最小化し、期待通りのアウトプットを得るためのスキルが「言語化能力」というわけだ。
鈴木氏の見立てによれば、日本では「空気を読む」「以心伝心」「阿吽の呼吸」のように言語によらないコミュニケーションが主流であり、教育システムにおいても、自分の意見や主張を強く述べることが要求されてこなかったため、言語化能力に難を抱えている人が多いという。「共通テンプレートの利用などに頼る手もあるが、よりAIを使いこなすためには、やはり個人のスキルとして身につけたい」と鈴木氏は語る。
4つ目の要素は、英語力である。鈴木氏によると、LLM(大規模言語モデル)の主なモデルは、英語データをもとにしたものが圧倒的に多いという。自然言語、とりわけ英語によるプログラミング環境が強化されている現状も踏まえると、「英語は最高のプログラミング言語になった」というのが鈴木氏の考えだ。AIによる翻訳などでもある程度はカバーできるが、ワンステップ増えてしまうだけでなく、微妙なニュアンスの再現は難しい。効率を考えるなら、やはり英語力を養う必要があるというのだ。
これら4つの要素、頭文字をとって「LAVE」は、AIにおける自分の課題を整理するための指針になると鈴木氏は説明する。「AIをそもそも使えていない人は、Lazinessに問題がある。AIは使っているものの、うまく活用できていないという人は、Analytical skillsかVerbalization skillsに問題がある可能性が高い。ここまではもうクリアしているという人が、より高みを目指すなら英語力が必要になる。このような流れで、ぜひ自身のスキルを見直していって欲しい」。
鈴木氏が最後に触れたのは、AIはエンジニアの仕事を奪うのかという問題だ。鈴木氏はNVIDIA CEOのJensen Huang氏による「AIが仕事を奪うのではなく、AIに精通した人が仕事を奪う」という見解を引用し、これに賛同する。
そのうえで鈴木氏は、「今まで我々が積み上げてきたエンジニアとしての知識や経験は、AIを活用するうえで絶対に無駄にはならない」とも強調する。
「エンジニアとして培ったスキルに加え、LAVEや科学的思考、批判的思考を磨くことで、"仕事を奪う側のエンジニア"になることこそが生存戦略だ。私もまだ英語力で課題を抱えている身だが、皆さんとともにスキルを磨き、この時代を生き残れるようになっていきたい」。鈴木氏はそう語り、講演を締めくくった。