妊娠・出産による不安・もやもやを解消した言葉
クラシコムは「北欧、暮らしの道具店」を運営しているEC事業者である。北欧、暮らしの道具店は大きく3つの側面を持つ。一つがD2C。これはいわゆるECサービス。「世界中のセレクト商品やオリジナルで開発した雑貨やアパレル、コスメなどさまざまなアイテムを販売しています」(木村氏)
2つ目がブランドソリューション。通信サービスのノウハウを生かしナショナルブランドのマーケティングを支援している。3つ目はコンテンツパブリッシャー。Webコラムやポッドキャスト、ドラマ、ドキュメンタリー映画などのコンテンツを毎日、配信している。
「先日、北欧、暮らしの道具店のモバイルアプリが、400万ダウンロードを突破しました」と木村氏と言うように、クラシコムは多くのファンから愛されているサービスを展開している。
木村氏がクラシコムに転職したのは、2022年。その背景には出産という大きな人生の転機があった。
大学で日本文学を専攻していた木村氏は、2007年に新卒でSIerに入社。「会社説明会での採用担当者の熱に押されて入社しました」と話す。30歳を目前に結婚したが、「30代前半は所属部署の売上達成のために、残業も休日出勤もものともせず、しゃかりきに楽しく働いていました」と当時を振り返る。この当時の木村氏の「一番星」は、全社売上トップ、女性新卒初のマネージャー、いけるところまでキャリアアップに挑戦すること。「我ながらガツガツしていた」と苦笑をしながらも、非常にやりがいを持って働いていたという。
そんな木村氏が出産を意識し出したのは、30代半ばに近づいたとき。結婚当初から「いつかは子どもを」と思っていたものの、いざそのタイミングが近づくと「キャリアはここで止まってしまうのか」「育休復帰後は時短勤務じゃないとやっていけないのかも」「つわりが重くて仕事を辞めざるをえなくなるかも」など、さまざまな不安、もやもやが押し寄せてきたという。
そんなときに出会ったのが、シェリル・サンドバーグ氏の著書『LEAN IN』である。「女性が一歩踏み出して自分のキャリアを築いていくことを後押ししてくれる本」と木村氏。中でも印象に残っている2つの言葉を紹介してくれた。
一つが「怖がらなければ何ができる? そして、それをやりましょう」。これは著者がある女子大学の卒業式で話したスピーチの中に出てくるフレーズで、「今もお守りにしている」と木村氏は話す。もう一つが、「辞めなければならないときまで辞めないで」。これは「子育てのために仕事を辞めるのは、本当にその必要ができたとき」と書かれていた章のタイトルだ。「この言葉は、妊娠しながら働くのはどんな感じだろう、今と同じように働けるのかな? と不安を抱えていた当時の私にとっては、とても心強く感じました」(木村氏)
育休後現場復帰したが働き方がフィットせず、転職にチャレンジ
これらの言葉を支えとして、木村氏は産休・出産を経て育休に入った。だが、初めての子育てが始まり、妊娠中とは異なる不安やモヤモヤが生まれた。そしてこの頃から木村氏にとっての一番星が、「子どもを無事にのびのび育て上げたい」「子どもにとって自分たち家族が安心できる場所でありたい」「仕事と育児、どちらも無理なく自分にフィットした状態にしたい」の3つに変化した。
この頃、木村氏は新しい本に出会う。ハラユキ氏のコミックエッセイ『ほしいのは「つかれない家族」』である。この本を読み、日本をはじめ世界のいろいろな「つかれない家族」の形や「育児中の睡眠不足は当たり前」といった育児を取り巻くいくつもの呪いを知った。
さらに、この本には家族と建設的に話し合うためのコツも載っており、夫婦でこれからの生活をどう乗り越えていくかについて話し合うきっかけにもなった。
育休復帰後、木村氏にとっての一番星ががらりと変わったことで、以前同様の働き方はフィットしなくなった。限界を感じたとはいえ、新卒から14年間務めていた会社。かなり悩んだが、転職活動を始めた。
このとき改めて木村氏は「自分は何をしたいのか」について考えたが、「これだ」というものは見つからなかった。「いろいろな会社のカジュアル面談に参加しました。五里霧中の状態での転職活動だったので、ヘロヘロに疲れてしまいました」と当時を振り返る。
日々、心を癒すために訪れていたのが「北欧、暮らしの道具店」だった。いつも通り商品ページや記事などを眺めていたが、ふと、以前エンジニアの募集をしていたことを思い出しクラシコムの採用情報をチェック。エンジニアを募集していることを知り、応募することに。その中でクラシコムのミッション「フィットする暮らし、つくろう。」に出会い、「まさに私の転職動機とマッチしている」と思ったという。「ミッションへの共感とともに、大好きなECサイトを技術で支える未来が目の前に浮かんだんです。『怖がらなければ何ができる? そして、それをやりましょう』という言葉を心の中でつぶやきながら、勇気を出して応募。そして今に至ります」(木村氏)
クラシコムに転職し、定時退社が当たり前に
クラシコムに転職したことで、4つのことが変わった。1つ目は社員の男女比が逆転したこと。「前職の男女比率は男性8割、女性2割。一方、クラシコムは女性8割、男性2割。かなり衝撃を受けました」(木村氏)
技術組織だけに限ると男女比は前職とあまり変わらないが、全社的に女性比率が高いことで、産休育休を取得することがマイノリティではない状況は新鮮だった。
2つ目は、定時退社が当たり前になったこと。「クラシコムは創業以来、残業を当たり前にしないことを全社方針に掲げてますが、その文化が技術組織含め全社に根付いていることに驚きました」と木村氏。
実際、木村氏の勤務時間は9時~18時(昼休憩1時間を含む)。クラシコムでは月の労働時間の合計が規定労働時間を満たせば、8時から19時の間で勤務時間を自由に調整できるのだ。さらに、勤務形態は月2回の出社日を除きフルリモート。木村氏が所属しているテクノロジーグループは毎朝10時に朝会を開催するが、それに間に合うのであれば、9時の始業に間に合わなくても連絡をする必要がない。おおよその1日のスケジュールは図の通り。仕事を効率良く進めたとしても、「この通りにいかない日が大半」だという。しかし、子どもの寝かしつけなどがスムーズに進んだときは、「約2時間、自由時間がとれるので、趣味のゲームを楽しんでいます」と話す。
3つ目は、目線が社外から社内へ向いたこと。前職では担当顧客の業務改善や売上拡大を支援することにフォーカスしていたが、クラシコムでは社内の業務改善や会社の売上拡大の支援にフォーカスして働いている。「前職は成果が数字として表れるので目に見えやすく、それがやりがいでした。今は社員がワンチームとなり、しっかり肩を組んで課題に取り組む楽しさがあります」(木村氏)
これを象徴するエピソードとして、クラシコムのTech Blogに倉庫管理システムのリプレースPJについて技術組織側、顧客対応側それぞれの視点で振り返る記事が掲載されている。それを読むと、ワンチームで課題に取り組む様子がわかるという。
そして4つ目は、可能な限りあるべき姿を追求すること。前職ではお客さまと約束している納期に納めることが大前提。そのためバッファを積む、スコープを調整するなど、リスクをなるべく減らす力学が働いていた。しかしクラシコムではその前提が存在しない。「自分たちのあるべき姿・ありたい姿は何か、それを実現するためにはどうすれば良いかをみんなで考える。そういったアプローチが取られています」(木村氏)
続いて木村氏は、クラシコムの技術組織の特徴についても紹介。第1にチーム意識が高いこと。チームとしてより良い成果を出すためにはどうすればよいかを一人ひとりが意識しているという。第2に合意と振り返りがしっかりしていること。「これがチーム意識の醸成につながる一要素になっていると思います」(木村氏)
すこやかに働き続けるために心がけていること
クラシコムに転職したことで、働く環境や仕事の質が変わった木村氏。その上で、すこやかに働き続けるために心がけていることがある。仕事面での第1は、定時退社。「定時退社を意識することで、1日を乗り越えるエネルギーを保つことが出来ていると感じます」(木村氏)
次に一人で抱え込まないこと。定時退社を実現するには、仕事を効率良く進めることが非常に重要になる。「そのためには一人で抱え込むようなことはせず、適切なタイミングで相談することを心がけています」(木村氏)
そしていつ何があっても良いように、作業内容を共有すること。「毎日の朝会以外にも、作業内容の途中経過をチケット管理システムのコメントに残すなどして、自分のやっていることがみんなにわかるようにしています」(木村氏)
育児面で心がけていることの1つ目は、手を抜けるところはすべて抜くこと。『ほしいのは「つかれない家族」』には、「手間をかけることが愛情は、家族への呪い」ということが書かれている。「この言葉をお守りに、手を抜けるところを見つけ次第、手を抜くようにしています。そこでできた余裕を、子どもと向き合う時間にしたり、趣味に使ったりしています」(木村氏)
2つ目は、愛情を惜しみなく伝えること。「子どもへの愛情表現はシンプルかつたっぷりとを心がけています」(木村氏)
家族に無条件に愛されているという実感を持つ子どもは自己肯定感が高くなると言われており、木村氏自身もそう感じているからだ。とはいえ、ベタベタに甘やかしたり、過剰に干渉したりすることはしないよう心がけている。
3つ目は自分を甘やかすこと。仕事をしながらの子育ては、やるべきことに追われてしまうため、どうしても自分のことは後回しになってしまう。「だから意識的に自分を甘やかし、次の一日を乗り切る気力をチャージしています」(木村氏)
結婚、出産などライフステージが変わることで、自分が目指すキャリア、仕事のあり方など、一番星も変わっていく。そこで大事になるのは「誰かにとっての一番星ではなく、自分にとっての一番星を自分のペースで目指すこと」と木村氏は言う。それを目指す中で、不安なこと、怖いことはたくさんある。「そのときのために『怖がらなければ何ができる? そして、それをやりましょう』という言葉を心のお守りに加えていただけたら」と最後に語り、セッションを締めた。
クラシコム エンジニア向け会社紹介資料
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