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開発現場インタビュー(AD)

ユーザー6500万超「TimeTree」の進化を支える組織論──ニックネーム文化がAI時代のプロダクト開発を加速する

エンジニアの「声」がAI機能になるまで:イベントアシスト機能とAI駆動開発の最前線

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 全世界でユーザー数6500万人超を誇るカレンダーシェアアプリ「TimeTree」。その進化を支えるのは、社長も新入社員もニックネームで呼び合う、徹底的にフラットな組織文化だ。なぜこの文化が、エンジニアの自律性を育み、AIを活用した未来の機能開発を可能にするのか。CTOの河野洋志(Scott)氏と、エンジニアでありチームマネージャー、プロダクトマネージャーも務める三位大介(Vicke)氏に、その秘密を訊いた。

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TimeTreeの進化の最前線:AI活用をリードする二人のキーパーソン

──自己紹介をお願いします。

河野洋志氏(以下、Scott)TimeTreeには2016年1月に入社して以降、サーバーサイドのエンジニアとして開発に従事していました。一昨年にCTOに就任し、現在はエンジニア組織のマネジメントをしています。社内でのニックネームはScottで、由来はヘビーメタルのギタリストからです。

三位大介氏(以下、Vicke):バックエンドエンジニアとして入社し、現在もバックエンドエンジニアとして働いています。さらに、共有カレンダー(複数人で1つのカレンダーを共有し、予定を共同で管理できる機能)本部ではチームマネージャーという役割を担っています。今年4月、プロダクトマネージャー(PdM)に就任しました。Vickeというニックネームは、アニメ「小さなバイキングビッケ」に由来しています。

──まず、「TimeTree」についてお伺いします。多くのユーザーに愛されるプロダクトですが、お二人の視点から見たTimeTreeの特徴や、最近の注目すべき進化はどこでしょうか?

Scott:TimeTreeは予定の共有とコミュニケーションのためのカレンダーシェアアプリです。一般的なカレンダーアプリが手帳をデジタル化したものだとすると、TimeTreeは壁掛けカレンダーをアプリにしたようなものなんです。一つのカレンダーに対して、みんなが予定を書き込み、それをみんなで見る。そういう共有のしやすさ、わかりやすさが評価されているのだと思います。

 特徴的な機能の一つが「公開カレンダー」です。これはマーケティングやプロモーションしたいイベント情報を簡単に受発信できるサービスです。

株式会社TimeTree 執行役員 / 最高技術責任者 CTO / 技術本部長 河野 洋志(Scott)氏
株式会社TimeTree 執行役員 / 最高技術責任者 CTO / 技術本部長 河野 洋志(Scott)氏

Vicke:共有カレンダーでは今、2つの機能を開発しています。一つがアルバム機能で、共有カレンダー内で写真を共有して、思い出を溜めていけるような機能です。もう一つがAIを活用し、ユーザーさんが最適な未来を選べるように予定作成をサポートしていくもの。現在は、予定に紐づくToDoをAIが生成し、提案する「イベントアシスト機能」の開発に取り組んでいます。

Scott:例えば引っ越しという予定を入れると、住民票の手続きなど、引っ越しに必要なタスクを出してくれるんです。

 技術面では、2025年1月にデータベースをGoogle Cloudの「Cloud Spanner」に移行しました。これはスケール面でのメリットが得られるほか、ベクトル検索ができたりグラフデータベース機能が提供されたりなど、データベースそのものが進化しているんです。

なぜニックネーム?心理的安全性が「本質的な議論」を生む

──TimeTreeでは、全社員が本名と関係のないニックネームを持つようなユニークな組織文化があります。狙いや効果について教えてください。

Scott:ニックネーム制度のきっかけは、TimeTreeを立ち上げた5人が、創業前にカカオジャパンへ出向していた当時の経験にあります。当社を創業するにあたり、その体験が良かったためニックネーム制度を踏襲しました。新しく入ってくる社員にもニックネームをつけてもらい、今に至ります。

 最初からどこまで深い狙いがあったのかはわかりませんが、ニックネームで呼び合うことで、私のような古株の人間と入ってきたばかりの新人との間でも、フラットな関係性でコミュニケーションを取ることができると実感しています。ニックネームは基本呼び捨てなので、CTOという役職があっても、ニックネームで呼び合うことで余計なバイアスがなくなり、本質的な議論ができます。

Vicke:最初はニックネームで呼び合うことに違和感を覚えるメンバーもいますが、慣れると年齢や社歴に関係なく、同じようにコミュニケーションが取れるのがニックネーム制度の良いところだと思います。

──ニックネームが心理的安全性を生む、素晴らしい文化ですね。一方で、フラットな組織ならではの難しさや、乗り越えてきた課題はありますか?

Scott:フラットな組織は、コミュニケーションが取りやすい一方で、いろんなパスでやり取りがあるので、情報が可視化されにくいという課題がありました。例えば誰に聞けば物事が進むのかがよくわからなかったり、逆に知らないうちに話が進んでいたりなど、ボトムアップで動くのはいいことですが、組織として統制が取れているかといわれると疑問でした。そこで2024年の後半から、チームマネージャーやディビジョンマネージャーというロールを設置し、コミュニケーションのパスの整理に取り組んでいます。

Vicke:マネージャーというロールがあることで、現場のスタッフにとっても、キャリアに関する悩みの相談もしやすくなったんじゃないかと思います。

──その他、TimeTreeの組織文化を形作っている制度があれば教えてください。

Vicke:入社すると、3~4人のメンバー同士で7~8回ほど雑談する「ファーストミーティング」という仕組みがあります。ファーストミーティングの良いところは、ニックネームで呼び合うことに加え、所属部署以外にも知り合いができること。いろいろなメンバーのことを知る機会になっています。

株式会社TimeTree バックエンドエンジニア / 共有カレンダー本部チームマネージャー / プロダクトマネージャー 三位 大介(Vicke)氏
株式会社TimeTree バックエンドエンジニア / 共有カレンダー本部チームマネージャー / プロダクトマネージャー 三位 大介(Vicke)氏

Scott:例えば同じような趣味を持っている人と繋がったり。チームの中でコミュニケーションが閉じないための取り組みなんです。

Vicke:ほかにも、新入社員にはチーム内・チーム外の2人のメンターがつく制度があります。チーム内のメンターは、普段の業務をサポートします。一方のチーム外メンターは、業務以外の面で困っていることがあればサポートしてくれます。メンター/メンティーである期間を終えても、メンターとの関係が継続することも珍しくなく、僕は3年前にメンターをしていたメンバーと、今でも定期的に雑談しています。

Scott:チーム外メンターで面白いのはエンジニアであっても、経理やセールスのメンバーがメンターにつくこともあること。2人のメンターがつくことで、会社の中でどのような業務があり、どんな人たちが働いているのか知ることができるようになっています。

ボトムアップで生まれたAI「イベントアシスト機能」開発秘話

──TimeTreeでは、現在AIを活用したプロダクト開発を推進していると聞いています。まずはTimeTreeとしてAIの活用方針を教えてください。

Scott:AIは今非常に面白いフェーズにあると捉えています。TimeTreeとしてのAI活用の観点は大きく2つあります。一つはより良いプロダクトづくりへの活用。もう一つは普段の業務への活用です。AIの業務への活用については、AI開発ツールをどんどんメンバーに試してもらい、何ができて何ができないのかなど、知見を溜めているフェーズです。

Vicke:プロダクトづくりへのAI活用は、まさにこの「イベントアシスト機能」に象徴されます。これは、ユーザーさんが特定の予定を作成すると、AIが関連するToDoを自動で生成し、提案する機能です。現在、ToDoを作成できるのは引っ越しや結婚式、出産、キャンプ、旅行などカテゴリーを絞っていますが、予定に対して煩雑なToDoが付随するようなカテゴリーであれば、それらを対象に機能が働くようにしていく予定です。

 具体的には予定のタイトルと日付、予定に付随するユーザーさんが入力した情報をLLMで解析して、最適なToDoを返すというものです。今年の3月、引っ越しシーズンに合わせてリリースしました。

──冒頭でもお話いただいた「イベントアシスト機能」がAI活用の象徴的な事例なのですね。この機能は、どのような課題意識やビジョンから生まれたのでしょうか?

Vicke:TimeTreeではプロダクトビジョンが定義されており、その中には「未来発見価値」を提案していくことも謳われています。共有カレンダーで考えると、ユーザーさんが将来の予定について、より良い選択ができることを可能にするためのものを作る、という流れで生まれた機能です。

 そこで、チームでは「ユーザーさんの意識にはないが必要になるであろう情報を顕在化してあげる」というテーマを掲げ、そのテーマのもと予定に対するToDoを提案する機能を開発することになりました。僕はバックエンドエンジニアとしてチームに関わりました。

 TimeTreeの開発現場では、企画を考える段階からエンジニアが議論に参加することは珍しいことではありません。企画を考えるのが好きな僕は、ずっとそのようなことがやりたいと思っていました。なので、イベントアシスト機能の現場では、エンジニアと企画者の双方の視点から機能を考え、エンジニアと企画者の認識のズレをうまく埋め、チームを一体化させることを意識しつつ、みんなの意見をすり合わせていくためのサポートをするという動きをしていました。

──その後はどのような流れで開発が進んでいったのでしょうか。

Vicke:テーマが決まったのが2024年12月。そこから企画が動き、どういう提案をするかという議論が始まりました。最終的にはToDoを提案する機能に決まりましたが、ToDoではなく情報を提供する形式の方が良いのではという意見もありました。また最初にリリースするカテゴリーやリリース時期についても議論しました。最終的にリリース時期を3月の引っ越しシーズンまでにしようと決まったのは、リリース直前の2月半ばだったと思います。

 したがって開発にかけられた時間は3週間弱。僕はバックエンドエンジニアとして生成AI周りのサービスについて調べたり、どういうAPIを使えば何ができるのかなど、社内ですでにAIを活用していたメンバーにヒアリングしながら、やりたいこととできることを埋めていく作業を同時並行で進めていました。

──リリース後の反響についてはいかがですか。

Vicke:まだリリースしたばかりですが、生成されたToDoについてはユーザーさんが手動で作成されたチェックリストと同程度の割合で使ってもらえています。さらに価値を提供するため、データを元に改善策を考えているところです。

──エンジニアも率先して企画に携わっているのが印象的です。ボトムアップの動きを推進するために、経営側やマネージャーとして意識していることはありますか。

Scott:プロダクトのことを考えて提案してくれたものに対して、CTOとしてはそれをどう実現できるかを常に考えています。開発コストやリソースなどの制約に加え、会社としての優先順位があるので、すべての提案が実現できるわけではありません。そのため、優先順位は会社のビジョンやミッションを基準に決めていくことが多いですね。

Vicke:プロダクトマネージャーはどんなプロダクトを作るかという意思決定の責任を負う役割です。先述したように、元々プロダクトマネージャーとエンジニアチームの間の認識のズレを埋めていくという役割を担っていたので、プロダクトマネージャーに就任以降は、自分の考えをメンバーやチーム外の経営陣に適切に伝えられるよう、意識して会話しています。

──Vickeさんは、プロダクトに貢献していこうという考え方、いわゆる「プロダクト視点」をどのように身に付けていったのでしょう。

Vicke:すべてのエンジニアがプロダクト視点を持つ必要はないと思っています。ですが、プロダクト視点を身につけたいなら、まず実装のことは忘れて、何でもできる前提で「あるべき姿」を考えること。そして、思いついたアイデアを「自分ならどう使うか」と自問する。常にアンテナを張り、ユーザーさんを観察し、想像を広げることが重要です。

 企画によっては、自分がペルソナとずれているケースもあります。そのときは、その身近にいるペルソナを観察したり、必要ならインタビューをして、想像を広げていく。そういうことができるよう、常にアンテナを張っておくことも大切です。

 僕もついついエンジニア脳になり、開発視点で考えてしまうこともあります。難しいことですが、プロダクト開発の本質を置き去りにしないよう、常に意識しています。

個人の「やってみたい」を組織の力に。全社で取り組むAI駆動開発

──AIのプロダクトへの活用だけでなく、開発プロセス自体にもAIコーディングツールを積極的に導入し、知見を溜めているフェーズだという話がありました。

Scott:最初に導入したのはGitHub CopilotやTabnineだったと思います。当時はAIによるコード補完機能によって、コーディングの効率が多少上がればいいなと考え、導入しました。その後、CursorやDevinが登場し、パラダイムが変わり始めたことを実感しています。

 そこで僕がしっかり検証して導入するよりも、規約がしっかりしており、セキュリティの担保ができるツールについてはいち早く導入し、メンバーに使ってもらってフィードバックをもらう方針を取っています。

 現在、当社の開発現場に導入しているのはGitHub CopilotとCursor、Devin、Claude Codeです。その他、エンジニア以外の方も含めて、ChatGPTやGemini、ClaudeなどのAIエージェントを利用できるように整備しています。

──さまざまなツールをいち早く導入されているのですね。現場ではどのように活用され、どのような変化が起きていますか?

Scott:今はたくさんAIツールに触れてもらうことを重視している段階なので、定量的な評価はまだ先です。というのも、AI活用について、先陣を切って活用する人もいれば、活用したいがどう使ってよいか分からないという方など、エンジニアの中に温度差があるからです。ですが、これからの時代において、AI活用は必須。様子見や迷っているエンジニアのために、こういうタスクならできる、こういうプロンプトを書くとこんなことができるなど、共有会を開催することで、情報共有を図っています。

Vicke:僕のチームの中にも、日々いろんなツールを試しては、Slackで情報共有してくれるメンバーがいます。それに刺激を受け、みんなAIツールを触るようになっていますね。

Scott:特に開催して評判がよかったのは、AIを活用しているエンジニアによる社内勉強会でした。4人のエンジニアがLTで発表し、すぐに真似できるようなプロンプトを紹介してくれました。Vickeも言うようにSlackでの情報共有も盛んです。Devinを筆頭に、ツール自体に作業ログが見られる仕組みがあるので、それを見るだけでも勉強になります。

フラットな組織文化が、AI時代のスピードを生む

──改めて、フラットな組織文化がAI活用やボトムアップ開発に貢献していると感じる点はどこでしょう。

Scott:非常にシンプルです。例えば導入したいツールがあれば、僕に直接「使いたい」と言いに来てくれる。僕がその場で意思決定すれば、即日導入できる。このスピード感こそ、フラットな組織の最大の武器です。AIのように日進月歩の技術を扱う上で、この機動力は欠かせません。

Vicke:まさに「自律プロジェクト」という仕組みが、フラットな文化を象徴しています。自律プロジェクトとは、業務時間の10%を使って、メンバーが自らの問題意識からプロジェクトを立ち上げられる制度です。ボトムアップで生まれたアイデアが、正式なプロダクトになる事例も多い。僕がかつて提案した速度改善もそうですし、また僕のチームで保守運用の時間を確保する仕組みができたのも、現場の声がきっかけでした。

Scott:エンジニアだけではなく、共有カレンダー上で予定をデコレーションする「ステッカー」機能も、デザイナーから出されたアイデアがプロジェクト化されたものです。

──最後に、お二人の今後のチャレンジについてお聞かせください。まずScottさんはCTOとして、そしてVickeさんはエンジニア兼PdMとして、それぞれどのような未来を描いていますか?

Scott:AI推進については、生産性向上につながるよう取り組んで行きたいですね。TimeTreeはサービス開始から約10年。各リポジトリも相当巨大になってきています。そういった部分に対しても、AIがうまく機能することを期待しています。AIの進化に追従できるよう開発環境を整備していきたいですね。

Vicke:僕は今、エンジニアをやりつつプロダクトマネージャーにキャリアの軸足を広げている状況です。これからもプロダクトマネージャーとして成長していきたいと考えています。

 AIの活用は必須ですが、プロダクト開発においてはAIありきで考えないようにしたい。まずはユーザーさんが困っていることを第1に考える。そしてそれを解決するのにAIがマッチするのであればAIを活用する。その順番を間違えずに、プロダクト開発に貢献していきたいと思います。

TimeTreeでは一緒に働く仲間を募集しています!

 バックエンドエンジニアはもちろん、TimeTreeでは幅広くエンジニアを募集しています。本記事で興味を持たれた方はぜひTimeTree採用サイトからご応募ください。

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提供:株式会社TimeTree

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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