エンジニアリングを理解してもらうために、まずは相手を理解しよう──今日からできる事業貢献の第一歩
第3の軸「Domain」について佐藤氏は、エンジニアに求められるドメイン知識を「業務知識」のみに狭く捉えてはならないと警鐘を鳴らす。「事業の知識、業界の知識、さらにビジネスの知識を理解していなければ、事業とエンジニアが分断され事業貢献ができない」。売上やコスト構造を語る以前の問題として、自社がどこに価値を見いだし、どの仕組みで収益化しているのかという根幹を押さえる必要があるというのだ。
ドメイン理解の起点として必要になるのが、ビジネスモデルの把握である。一般にビジネスモデルは「商流・物流・金流・情報流」の4要素によって構成されており、自社がそれぞれの流れのどの場所に位置し、どの部分に強みを持つのかを理解することで、事業の構造が浮かび上がる。たとえばEC、SaaS、SIerなどのモデルには共通する「型」が存在し、各企業はその枠組みの中で差別化戦略を構築している。
佐藤氏は例として「Amazon Go」の事例を取り上げた。同サービスは、行動解析を担う「Just Walk Out」技術を競争優位の中核に据え、当初は専用店舗の運営によって事業を展開していた。しかし後にAWSが同技術を外販ソリューションとして提供し、収益構造は店舗ビジネスからライセンス提供へと転換。店舗運営の制約や顧客体験の課題など、市場環境の変化を踏まえ、ビジネスモデルそのものを柔軟に書き換えた。
「こうした転換を生み出す主要因は、市場環境そのものだ。競合の動向、顧客ニーズ、現場の制約といった外部要因によって、企業の競争優位性は常に揺らいでいる」。佐藤氏はそう話し、「ゆえにエンジニアも、自社が市場においてどの価値領域を担い、どこに経営資源を集中すべきかを把握する必要がある」と指摘する。「リソースを投下すべきは中核領域であり、一般化した領域についてはSaaSなど外部サービスの活用を検討すべきだ」というのが佐藤氏の主張だ。
第4の軸「Engagement」は、ステークホルダーとの関わりを意味する。エンジニアリングは、マネージャー、経営者、顧客、株主、地域社会など、多様な利害関係者の期待のもとに成り立っている。それぞれが異なる前提・関心・評価軸を持つ以上、単一の価値観だけでは事業貢献の全体像を捉えることはできない。だからこそ、組織として「協働する」姿勢が不可欠になる。
「こうした協働の実態は固定化された組織図では把握しきれない」と佐藤氏は述べる。実際の企業活動は、部署や職能を越えて顧客・仕入れ先・外部パートナーと網目状につながる「オーガニグラフ」として動いている。エンジニアは自部門に閉じず、周辺領域を含めたドメイン全体を理解しながら価値提供に関わる必要があるというのだ。
ここで重要になるのは、「相手の立場に立つ」姿勢だ。佐藤氏は「エンジニアリングを理解してほしいと求める前に、まず相手を理解しなければならない」として、営業現場への同行や、ユーザーから直接フィードバックを得る行動の重要性を説く。相互理解の積み重ねが、現場が自律的に価値創出へと向かう「自己組織化」を促すのだ。
セッションの締めくくりとして佐藤氏は、事業貢献を考える上での指針として示した「CODE」の意義を改めて強調した。この4軸を体系的に理解することで、エンジニアは自身の活動を事業価値へとつなげる道筋を描きやすくなる。
「エンジニアリング活動は、技術的な成果だけでなく、事業全体への貢献を意識することで、より大きな価値を生み出せる。特に現在はAI技術の高度化により開発コストが下がりつつあり、なおのこと経営視点の重要性が増している」。
最後に佐藤氏は、会場に向かって問いかける。「あなたにとっての事業貢献は、何をすることですか?」エンジニア一人ひとりが経営視点を持ち、自らの解を持つことこそが、事業貢献の確かな第一歩となるだろう。
