エンジニアリングの本質を見直す──カギは「エンジニアとしての原体験」
コーディングの機会が減る中でどう実力をつけるか。熊谷氏が提示したのは「原体験に戻る」ことだった。
「皆さん、初めて書いたコードや初めて作った仕組みのことをどれくらい覚えていますか」
熊谷氏が初めて作ったプログラムは、リスティング広告運用を自動化するスクリプトだ。毎日2時間を費やしていたキーワード入札単価の調整作業に限界を感じ、非エンジニアながら100行程度のコードを3日かけて完成させた。
「成果物が欲しかったわけではなく、無駄な仕事から解放されたかった」
初めてコードを書いたときは可読性など考えず、「その先にある価値が欲しかった」と話す。それがエンジニアとしての原体験だ。
しかし仕事では納期に追われ、本質から遠ざかることがある。熊谷氏は価値創造のため、Why、Whatに目を向ける4つの問いを示した。「誰のため?」「何を解決したいの?」「それは本当に困っていることなの?」「そもそもそれってシステム化する必要があるの?」特に重要なのが、後半の2つだ。課題が本当に存在しているのか、ピントがずれていないかを問うことで本質が見えてくる。

具体例として、ワークフロー機能の開発時に受けたフィードバックを挙げた。申請者が所属組織を手入力しているため選択式にしたいという要望だ。しかしよく話を聞くと、申請者だけではなく承認者も困っていた。表記は正しいが古い組織名が入力されるケースがあり、承認者のチェックが大変だったのだ。その結果、選択式だけでなく組織のリビジョン管理機能も追加し、古い申請を検知できるようにした。
「私たちがここにいる意味は、コードを書くことじゃない。成果物を納品することでも、デプロイすることでもない。そこから価値を生み出すのが、私たちのいる意味なんだ」と熊谷氏は強調した。

実践する機会としての「個人開発」、フレームワークによる学習の効率化
価値創造に向き合うためには実践の機会が必要だが、AIの普及で減りつつある。そこで熊谷氏は個人のプロジェクトを強く推奨した。「個人開発は公開しなくてもいい」。自分で使うためだけのプログラムで十分だし、誰にも見られないのでかっこ悪くても失敗しても怖くないという。

ただし一般公開するアプリを作るメリットも大きい。誰の何を解決したいのか、Why・Whatの部分としっかり向き合うことになり、上流から設計する経験が積める。さらに自分のサーバー代が月数万円飛んでいくとなれば、コスト最適化にも本気で取り組むようになる。そして利用者から「すごくいい仕組みだね」と言われることが励みになる。
作るネタがないという人には、「姓名判断プログラムで娘の名前候補を一気に判定した」「羽田空港の駐車場満空情報を1週間収集して、何時に行けば止められるか分析した」といった自身の開発例を挙げ、自分の生活を便利にするためのアプリ開発を勧めた。
また、学習効率化の手法として、アクティブリコールと分散学習も紹介した。
アクティブリコールは、勉強した内容についてテキストを見ずに思い出して書き出す方法だ。「おととい食べた晩御飯を思い出すときのように、脳に負荷をかけながら自発的に思い出そうとすることで、脳が重要な情報だと認識します」。受動的に読むだけより、記憶の定着が促される。
分散学習は、同じ内容を連続で学ぶより間隔を空けて繰り返す手法だ。2時間ぶっ通しで勉強するより、1時間ずつ日を分ける。間隔は3日後、7日後、10日後と徐々に広げていく。
熊谷氏はこの2つを組み合わせている。例えばAWS資格の勉強では、参考書を1章読んだら、Claudeのチャットに学習内容を思い出して書き出す。AIに添削してもらい、テキストや公式ドキュメントで答え合わせをする。これを3回繰り返し、数日後に同じチャットを開いて再度思い出して書き出す。「同じところがわかっていないな、というのが浮き彫りになり、苦手箇所がわかりやすくなります」


