AI時代こそ求められる「チームの判断軸」
ここで鳥井氏は、生成AIの急速な進化を踏まえ、これからのコードレビューやチーム作りをどう捉えるべきかという問いを投げかけた。
著書『伝わるコードレビュー』の執筆時点では、現在のような生成AIの発展は想定されておらず、書籍内でAIに直接触れてはいない。しかし現実には、人間がすべてを読み、判断し、指摘する開発スタイルはすでに変わりつつある。
構文チェックやコード構造の指摘といった領域はAIによって自動化され、より高速かつ網羅的に処理できるようになった。ただし、鳥井氏は「AIにも明確な限界がある」と留保する。実装に至った背景やビジネス上の文脈の把握、チームの文化や人間関係への配慮、さらに意見が食い違った際の調停を担うのは、依然として人間だからだ。
「むろん、AIにチームの文脈や文化を反映させることも、技術的には可能だ」と鳥井氏は語る。ただし、そのためには判断基準があらかじめ言語化されていなければならない。AIに「どう判断してほしいか」を伝えるには、まずチームとして「何を良しとするのか」を言葉として共有しておく必要がある。
AIに「このコードは修正が必要だ」と指摘された時「なぜそれがダメなのか」「どう直すのが適切なのか」を人間が判断する。「その前提となるのが、コードレビューを通じてチーム全体で判断の軸を育て、言語化し続けてきたかどうかだ」と鳥井氏は語りかける。結局のところ、判断するのは人間であり、価値を生む主役もまた人間なのだ。
コードレビューを共通言語にして「信頼」を育てる
セッションを通じて鳥井氏が強調するのは、「コミュニケーションは片方だけでは成立しない」という前提だ。本書の執筆にあたっても、著者陣は「レビュアーかレビュイーのどちらか一方だけに改善を求めない」という方針を共有していたという。
また、鳥井氏は「信頼関係を築くために必要なのは『気持ち』ではなく『情報』だ」とも語る。背景や意図が共有されれば、信頼は後からついてくる。そのためには、チームとして共通言語を持つことが欠かせない。コードレビューなどの機会を通じて、「チームとして何を良しとするのか」をすり合わせていくことが重要だ。
「開発においては、信頼関係を育てることがチームの力を最大限に引き出す。信頼を育てるためには、テキストコミュニケーションのマインドとテクニックがある。自分たちの言葉を作り、育て続けて、『伝わるチーム』をつくることを諦めないでほしい」。
変化の激しい時代にあっても、チームが拠り所とすべき本質は「言葉と信頼」にある。鳥井氏のメッセージは、コードレビューという枠を超え、エンジニアがこれからも持ち続けるべきマインドセットを静かに示していた。
