エンジニアに問われる課題設定能力と設計の重要性
講演の最後に、安野氏はDXには「レベル1」と「レベル2」があると提言した。レベル1のDXとは「既存のワークフローの1つ1つをデジタルに置き換えていくこと」である。対してレベル2のDXとは、「今あるテクノロジーを前提として、既存のプロセスや目標を一度忘れてゼロベースで再構築すること」だ。
今回の選挙活動で安野氏が実践したのは、まさに後者の「レベル2のDX」であった。従来の選挙のように「候補者の声を届ける効率(ブロードキャスト)」を追うのではなく、「有権者の声を聴く仕組み」つまり、ブロードリスニングという全く新しい目的を設定し、そのためのワークフローをゼロから設計したのである。この「目的そのものをテクノロジー基準で作り変える」姿勢こそが、社会に大きなインパクトを与える本質的なDXのアプローチと言える。
AIが急速に進化する世の中で、エンジニアの価値も変わりつつある。求められるのは、単にコードを書く技術ではない。特定の業界や領域の知識とAIを組み合わせ、社会や組織の課題をどう解決するかという「課題設定能力」と「アーキテクチャの設計能力」である。
安野氏は自身の歩みを振り返り、「あまりエンジニアがいないと言われている政治の業界に入っていくことで、独自の戦い方やインパクトが生み出せる」と語った。日本の現場に眠る「デジタル化されていない知恵や対話」をAIで集約し、活用することができれば、それは日本独自の強みを持ったDXに繋がるだろう。
AIはエンジニアの仕事を奪う脅威ではなく、これまでの組織や社会の限界を突破するための強力な道具である。政治という一見テクノロジーから遠い領域でさえ、エンジニアリングのアプローチで「バグ」を修正し、再構築できることを安野氏は証明した。
「今あるテクノロジーで何ができるのかをゼロベースで設計する。若手エンジニアの皆さんにはそこまでトライしてほしい」。安野氏は会場にいるエンジニアに向け、既存の枠組みを超えて「未来を実装する」ことへの挑戦を促し、講演を締めくくった。
