AIに依存せず「構造」を理解する。真の生産性を手に入れるための5ヶ月間
橋野未喜子氏は、ファインディでバックエンドエンジニアとして勤務し、テックイベントでの登壇や技術発信にも積極的に取り組む実践派エンジニアだ。今回のライトニングトークでは、「生成AIをあえて使わない5か月間の挑戦」という、一見して時代に逆行するかのようなテーマを掲げ、自身の成長過程を率直に語った。
ファインディでは生成AIの活用を強力に推進している。コード生成やデバッグ支援が定着し、開発生産性は飛躍的に向上した。一方で橋野氏は、「生成AIによるコード生成が質の低いプルリクエストを生む可能性」に警鐘を鳴らす。特にジュニア層は、生成されたコードの妥当性を十分に判断できないままマージしてしまう危険があると指摘する。
転職直後、橋野氏の開発チームには「1日4件のプルリクエスト作成」という目標があった。しかし橋野氏は、この目標をほとんど達成できずにいた。
同期が次々と新機能を実装していくなかで、自身だけが取り残されている感覚に焦りを募らせる橋野氏。転機となったのは、テックリードによる毎日の1on1だ。この対話を通じて橋野氏が決断したのは「生成AIによるコード生成をやめる」という選択だった。既存プロダクトのコードを徹底的に読み込み、基礎力の向上に集中する方針へと舵を切ったのだ。
具体的な取り組みは、以下の2つである。
1つ目は、テストのリファクタリングだ。テストカバレッジ90%超という数値に満足せず、テストの妥当性を再検証した。ソート処理では複数のテストデータを用意し、境界値や異順序データを含める構造へ改善。さらにはソート対象外のケースも組み込み、フィルタリングロジックまで保証できる形に整えた。
2つ目は、GraphQLのInteractor内部実装へのYARD形式ドキュメントの追加である。複雑化していた共通処理を言語化し、コードの可読性を高めた。結果としてオンボーディングの負荷は軽減し、生成AIへ正確なコンテキストも渡せるようになった。人間の理解を深める行為が、結果としてAI活用の精度向上にも寄与した。
この地道な取り組みの結果、当初は1日2件が限界だったプルリクエスト作成は、1日5件に届く日も出てきた。週平均7.2件だったプルリクエスト数は、修行期間中に18件まで増加した。
自力で開発を進めることで底力を伸ばした橋野氏だが、現在は生成AIを完全に排除しているわけではない。コードリーディングの補助や命名支援など、用途を絞り、意図的に活用している。
「生成AIは強力なツールだが、使いこなすにはエンジニアとしての基礎力が必要だった」と橋野氏は振り返る。焦りと距離を置き、地道な積み上げに注力した5か月間は、AI時代におけるエンジニアの成長戦略を改めて考えさせるものとなった。
