キャッシュフローの「8パターン」が技術戦略の正解を変える
営業CF・投資CF・財務CFはそれぞれプラスかマイナスの2通りがあり、2の3乗で8パターンに分類できる。前田氏はこのパターンによって、EMが取るべき技術戦略の方向性が大きく異なると説く。
「優良型」は営業CFがプラスで本業で稼げており、投資CFがマイナスで投資にお金を回せている状態だ。この状況下では大型のアーキテクチャ刷新や新規プロダクト開発、開発体験・採用への投資といった施策が打ちやすく、比較的いろいろな施策が打ちやすいフェーズと言える。
対して、本業でまだ稼げていないがVCや投資家から外部資金を調達して事業投資に充てている「成長型」は、外から借りたお金を燃やしながら走る「崖から飛び降りながら飛行機を作る」ような状況だ。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)が最優先課題となるこのフェーズでは、「アーキテクチャを最適化しましょう」という提案は距離がある。技術的負債を許容しながら、高速な仮説検証とマネージドサービスの積極活用により、エンジニアリソースをコア業務に注力させることが重要なポイントになる。
最も厳しいのが、本業で稼げず資産を売却しながら借金を返済している「リストラ型」だ。インフラコストの最適化やサービスの統廃合、直接的な売上改善へのリソース集中といった「生き延びるための戦略」が求められる。前田氏はこのパターンと会社・事業部ごとの財務状況を照合することで、技術戦略の提案が初めてマクロな文脈に乗ると言う。まず自社のキャッシュフローパターンを理解するための最短手段は、CFOに「CFの状況はどうなっていますか」と直接聞いてしまうことだという。
先行投資で見えた「伝え方」の壁——キャッシュフローの言葉で語れば提案は通っていた
2023〜2024年のatama plusは、既存事業の成長が踊り場を迎え、会社として次の成長をどう実現するかが最大の関心事だった。折しも生成AIが急速に普及し始めた時期だ。前田氏は「ここにベットしたい」という確信はあったが、会社の状況から大きな投資を提案できる空気ではなかった。
そこで前田氏は、有志のメンバーと共に予算もリソースも正式には確保せず、部活動的に生成AIを活用した新しい学習体験を開発し始めた。ユーザーの課題感度が高いPMが加わったことも幸いし、ユーザーから高い評価を得た。その評価が事業への跳ね返りを生み、次のキャッシュフローの種へと広がっていった。しかし後に前田氏が白状するのは、会社のリソースを正式な申請なく使っていたという実態だ。
今振り返ると「キャッシュフローの言葉で話していれば、普通に提案が通ったのではないか」と前田氏は言う。会社の現状のCFパターンを共有した上で、投資を先送りした場合のリスク(悪循環サイクルへの陥り方)を示し、この投資によってどのように状況が改善するかのシナリオとして提案できていれば、勝手に動く必要はなかった。
「大人になった今はそのようにしている」と前田氏は振り返る。現在の投資提案では、前提となるCFパターンの共有、先送りした場合のリスク列挙、短期的なPL・BSへの影響、そして将来の改善シナリオをセットで提示するようにしているという。
