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なぜ今、情報漏えいは同時多発するのか──AI時代の攻撃構造とランサムウェアとの「時間差」、いまできる最低限の対策

株式会社フォアーゼット 蔀 綾人[著]

情報漏えいはなぜ必ずしもランサムウェアとセットにならないのか

IABによる分業と「時間差」

 情報漏えいのニュースは増えていますが、そのすべてが暗号化を伴うランサムウェア被害として報じられているわけではありません。漏えいとランサムウェアが必ずしもセットで現れない背景の一つが、IAB(Initial Access Broker:初期アクセスの仲介業者)の存在です。IABは、企業ネットワークへの侵入経路(VPNアカウント、RDP、Webシェル、管理画面など)を確保し、それをランサムウェアのアフィリエイト(実行役)や情報窃取グループに販売します。IAB自身は暗号化や恐喝を行わず、入口を見つけて売ることに特化している点が特徴です。そのため、侵入の時点と被害が表面化する時点が、別々の主体によって切り離されます。

 2025〜2026年にかけてIABの役割が拡大していることは、複数のベンダーが報告しています。

  • Kaspersky(2026年5月12日):「IABの役割は拡大している」と明記。侵害済みアクセスの販売により「Access-as-a-Service」としてランサムウェア攻撃が産業化し、Telegramチャネルやダークウェブフォーラムが漏えいデータや認証情報、アクセス権の流通の場として機能していると指摘
  • Kaspersky Digital Footprint Intelligence(2026年1〜4月のIAB投稿分析):提供アクセスの60%が中小企業(小規模40%、中規模20%)を対象としたもの(NewsBytes.PH、2026年7月18日の報道)
  • Rapid7(2025年下半期の分析):IABの平均提示価格が約2,726ドルから約11万3,275ドルへ上昇し、ドメイン管理者など高権限アクセスの比率が上昇。販売経路の上位は依然としてRDP、VPN、RDWeb
  • ZeroFox:公開フォーラム上のアクセス販売は2025年第1四半期の約620件から2026年第1四半期の約370件へ減少。ただしXSS、RAMP、BreachForumsの摘発を受けて取引が非公開チャネルへ移った「市場の成熟」と分析

 そして公開情報から、2025〜2026年にかけてIABの役割は継続・拡大しており、取引は公開フォーラムから非公開チャネルやTelegramへ移り、より高価値・高権限のアクセスに選別されています。表に見える件数が減っても、見えない場所での取引は続いていると言えます。

 IABが介在すると「漏えい=即ランサムウェア被害」にならない理由は、主に三つ考えられます。

 第一に、アクセスの取得者と利用者が別であるため、侵入から暗号化までが一本道ではなくなります。売れ残るアクセスもあれば、情報窃取だけを目的とする買い手もいます。

 第二に、暗号化を行わずにデータを盗んで公開をちらつかせる手口が広がっています。警察庁は令和6年に、暗号化を伴わないノーウェアランサム被害を22件確認しています(警察白書 令和7年版)。Kasperskyも暗号化を伴わない恐喝の増加を2025年の特徴に挙げています。

 第三に、時間差の振れ幅が大きいことです。Mandiantの観測のように引き渡しが秒単位で自動化される場合がある一方で、アクセスが転売されたり保留されたりすれば、侵入から被害の表面化まで長い時間差が生じます。

 こうして入口の売買、暗号化なき恐喝、時間差の三つが重なると、外からは「漏えいは起きているのにランサムウェアの話が出てこない」状態が生まれます。情報漏えいの増加を、そのままランサムウェア被害の増加と同列に読むのは難しい、というわけです。

公表企業数とランサムウェア被害件数、業界の分布

 国内の公表ベースの数字として東京商工リサーチ(TSR)の集計を見ると、2025年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は180件(前年比4.7%減)、公表企業数は158社で過去最多でした。漏えい人数は3,063万6,910人分と前年の約2倍です。原因別では「ウイルス感染・不正アクセス」116件(64.4%)が最多で、「誤表示・誤送信」37件、「紛失・誤廃棄」18件と続きます。2026年は大型化がさらに進み、10月5日時点で100万件以上の漏えいが10件(2025年は通年で6件)、1,000万件以上が3件発生しています(TSR、2026年10月7日)。

 また、TSRの2025年集計の業界別内訳(公表158社)は次のとおりです。

  • 製造業 50社(31.6%)
  • サービス業 23社(14.5%)
  • 情報通信業 21社(13.2%)
  • 金融・保険業 20社(12.6%)
  • 小売業 15社(9.4%)

 一方、ランサムウェア被害は警察庁の統計で把握できます。令和7年(2025年)の被害報告は226件で、規模別では中小企業が約6割、業種別では製造業が約4割を占め、卸売・小売業、サービス業、情報通信業が続きます。

 また、公開指標を並べると次のように整理できます。

  • 上場企業の漏えい公表(2025年):158社中180件(うち外部攻撃起因116件)
  • ランサムウェア被害報告(警察庁、2025年):226件(中小企業が約6割)
  • 二重恐喝の割合(警察庁、2024年):手口が確認できた134件中111件(82.8%)
  • 業界の傾向:製造業が最多で漏えい公表だと約3割、ランサムウェア被害だと約4割

 まとめると、情報漏えいは件数だけでなく規模でも深刻さを増しており、大型化も進んでいます。一方でランサムウェア被害は大企業だけでなく中小企業にも報告されており、大企業だけの問題ではありません。規模を問わず対策が必要だということが、これらの数字から読み取れます。

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いまできる最低限の対策

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この記事の著者

株式会社フォアーゼット 蔀 綾人(カブシキガイシャフォアーゼット シトミ アヤト)

 株式会社フォアーゼットにてペネトレーションテスターとして、脆弱性診断やレッドチームオペレーションのほか、インシデントレスポンスやフォレンジック調査にも従事する。多数の民間企業にてセキュリティ顧問を務め、セキュリティ技術や知見を活用した組織強化にも寄与する。セキュリティキャンプをはじめとした、多数の...

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