イノベーションは身近なもの、さまざまな所にチャンスがある
基調講演では「先進ITとのつきあい方」と題し、株式会社アイ・ティ・アール シニア・アナリストの甲元宏明氏が、先進ITを利用してビジネスイノベーションを起こすための考え方や方法論を語った。
現在、多くの経営者は閉塞感のあるビジネス状況を打破するようなイノベーションを望んでいる。そのカギとして近年注目され続けている「IT」だが、ITに対する期待は「堅牢なシステム構築と運用」「経営戦略との同期」と移り変わり、最近では売上増大やコスト削減といった「ビジネスへの直接貢献」と変化してきている。同社が実施したIT投資動向調査から、甲元氏が次に高まりつつある声として注目するのが「ITを活用したビジネス提案」だ。言いかえると、IT部門主体のイノベーション(新規ビジネス)提案とも表現できる。
もちろん、イノベーションと聞くと、ハードルが途方もなく高い印象がある。ここで甲元氏は「イノベーションは必ずしもまったく新しい発明とは限らない。技術やモノに限らず、業務プロセスやシステム、販売手法と、様々な変化をイノベーションとして捉えることができる。また、サービスの黎明期、成長期~成熟期、衰退期とあらゆるフェーズでイノベーションは起こせる」と、イノベーションの身近さを前置きした。
イノベーションはどう見つければよいのか
では、実際にイノベーションはどのように起こせばよいのだろう。続けて甲元氏は、その糸口となるような具体的な事例や考え方を紹介した。
最初に挙げたのは「イノベーターは必ずしも先駆者とは限らない」点。8mmビデオカメラや、PC、テレビゲーム、スマートフォンなど、フォロワー(追随者)が真の変革をもたらした成功事例は少なくない。このように、どの企業にもイノベーションのチャンスがある点をまず強調した。
それでもイノベーションの創出は簡単ではない。方法論としてはいくつか存在するが、講演でピックアップされたのは、Mark W. Johnson氏の「ホワイトスペース戦略」。簡単にまとめると、既存のビジネスモデルにおける活動対象と隣接する領域(ホワイトスペース)を成長の原動力とし、不確かな思いつきに頼らず、一定のフレームワークに沿ってアプローチする、という考え方だ。身近な事例としては、iPod(携帯ミュージックプレイヤー)というホワイトスペースに進出して大成功を収めたApple社を挙げた。
具体的にこのホワイトスペースを見つける切り口としてまとめたのが、「経験経済(農業、産業、サービスに続く、個人の経験や感動を中心とした経済)」「グローバル競争」「ライフサイクルの短縮」の3つだ。経験経済についてはB2C企業向けと思われがちだが、コンシュマー製品の動向に企業も左右される点からB2B企業にも当てはまると補足した。
また、甲元氏はそれぞれを3つの項目に細分化し、次の9つの要件としてまとめた。
経験経済
- 個人の経験や感動を起点とした製品/サービス
- 顧客とのコミュニケーション/コラボレーション
- 顧客を巻き込んだ試行による製品/サービス開発
グローバル競争
- 世界中から容易に利用可能な製品/サービス
- 世界中の企業/個人との協業による製品/サービス
- 世界中の全ユーザーを対象とした製品/サービス
ライフサイクル短縮
- 顧客志向変化に対する敏感かつ俊敏な対応
- 迅速な立ち上げと撤退が可能な製品/サービス
- 投資回収期間の超短期化が可能な製品/サービス
特に日本市場はかなり飽和気味でライフサイクルも速く、これらの要件を満たさないとなかなかヒットしづらい状況になっている、と所感を述べた。
他にも、ホワイトスペースの見つけ方として、「ブルーオーシャン戦略」の「アクション・マトリクス」(取り除く・増やす・減らす・付け加えるを事業に当てはめ、再整理する手段)を取り上げた。