モバイル向けのFlash中止の発表に対して
――今回、モバイル向けのFlash中止の発表に対して、周囲の反応はどうでしたか?
発表前から、対Appleなどの構図を書かれてしまうだろうと予想はしていました。発表当初の全体的なリアクションとしては、やはり「これまでフラッシュを支えて提唱していたのに」と感じるコミュニティの皆さまからのフラストレーションが多かったように感じます。
そして発表の2日後、ブログにて説明させていただき、アドビの意思決定をユーザーの皆様にご理解いただけたかと思っています。しかし、理由は理解できても、情報の開示やプレスでの報道などで意思をうまくお伝えできず、フラストレーションを感じる部分もあったかと思います。
――今後、ユーザーはFlexの開発を続けていいのでしょうか。また、どれくらいの期間、HTML5に対する優位性は続くとお考えですか?
現在、技術的な側面で捉えると、やはりHTML5は全体的なトレンドとなっていると思います。3年~5年というスパンで考えると、エンタープライズ向けのアプリは、HTML5を中心に行われていくでしょう。
しかし、どうしてもHTML5を選択しなければならないというわけではなく、今後もFlashは、デスクトップでもモバイル(AIRアプリケーション)でも存在し続けます。
アドビは、これらに対し積極的に開発を進めていきますし、FlexがApache Software Foundationに寄贈されるということは、今後もFlashが継続して開発されることを保証するということでもあります。ただ、現行プロジェクトに何を使用しているかにかかわらず、技術としてHTML5のこと「も」知っておく必要があることは確かです。
実際、開発者に対して、クライアントがHTML5では何ができるのか問いかけられたり、HTML5を使用してほしいと依頼されるケースも増えてきつつあります。その時、最適な選択肢を提供できるよう、HTML5の正しい知識を知っておくことが必要です。複数の選択肢を提示したうえで、Flexが最適だと判断いただいた場合は、採用していただくという形になるでしょう。
現在開発中のツールに関して
――クロスコンパイラ「Falcon JS」についての開発は?
Falcon JSは、ActionScriptをクロスコンパイルし、JavaScriptに変換するツールですが、現状はまだ実験的な技術です。クロスコンパイラとしてだけでなく、そのほかに考えられるFalcon JSの主な用途なども模索しながら、良いソリューションになるのかどうか、開発を続けていきたいと考えています。
――今、アドビが手掛けているHTML5関連のツールは?
既に発表しているHTML5のオーサリングツール「Edge」だけでなく、他にも未発表のものをいくつか開発中です。主に、今Flashデベロッパーが慣れ親しんでいる現状のものを、HTML5にエクスポートすることを目的としたもので、FlashコンテンツをHTML5にエクスポートする「Wallaby」などがあります。
HTML5は若い技術のため、いろいろな研究を行い、その有効な用途を模索している最中です。来日の際、顧客訪問などで、HTML5の必要性などを聞き出しています。やはりユーザーからは、Flashと同じようなものをHTML5で実装するには? という質問などは多いですね。HTML5のCanvasを、Flashのように扱える「Easel JS」といったJavaScriptライブラリも開発されていますので、これらもFlashデベロッパーがHTML5技術を学ぶための手助けとなるでしょう。
大事なことは、技術の一長一短を相互に受け入れること
――エンタープライズアプリ開発におけるHTML5の課題とは?
HTML5の一番大きな課題は、いろいろな種類のブラウザをまたがる必要があることです。CappuccinoやjQueryなどのJavaScriptライブラリが有効になる部分で、この点は、Flashが優位性を持てる部分とも言えるでしょう。
エンタープライズ領域において、HTML5で対応できるのかと問われれば、もちろんYESだと思います。FlashやFlexとは、開発モデルから全く別のものなので、開発における課題も別物となるでしょう。自分がどのコミュニティに属しているかにより、優位性や課題に関しても、考え方は異なってくるものだと思います。
何よりも重要なことは、このように異なる技術があるとき、その技術の一長一短を相互に受け入れることです。アドビは、ユーザーに最適な選択肢を提示できるよう、今後もあらゆる可能性を模索していきたいと思います。