一番人気を博したグーグル及川さんの基調講演
参加者の多くは、やはり普段は東京でしかなかなか会うことができないスピーカーの皆さんに興味があったようで、連休前の平日にもかかわらず、大勢の人が集まりました。特に午前中の基調講演は、グーグル及川卓也氏のセッションということで、九州や東京(!)から参加した方もいました。
こうした著名なスピーカー陣ということもあってか、普段の関西でのコミュニティイベントより、参加者の皆さんが静かに集中していたように思います。食い入るようにスピーカーのお話を聴いている方も多かったです。
Google Chromeの事例に学ぶ最新の開発手法
デブサミ関西2012で一番多くの方が聴講したセッションは、やはり基調講演でもある及川さんの講演でした。
常に挑戦し続けてきたという豊富な経験をもとに、一つ一つ丁寧に語られるその言葉には、壇上での物腰の柔らかさはとは裏腹に非常に鋭いものが多かったです。
「ブレない」ことが大事
及川さんはセッション中に「ブレない」というフレーズを繰り返し使いました。
大規模かつ誰も見たことがない新製品を作る時に、それに携わる多くのチームメンバーが、何をゴールに作っていくのか「ブレない」こと。私自身の稚拙な経験からも重要かつとても難しいことが分かります。
及川さんは、「そもそも我々は何を作ることを目的としているのか? チームの誰もが覚えられるように単純化したテーマ、コンセプトを共有することは、『ブレない』ために有効な方法の一つだ」と言います。
例えば、Google Chromeのテーマ、コンセプトは、4つの「S」で始まる単語「Simple」「Speed」「Security」「Stability」であり、これを徹底していると言います。仮に魅力的な新機能でも、それが「Simple」や「Speed」を満たさなければリジェクトするほど徹底しているそうです。
一方で、プロジェクト関係者を「市民」に例え、「プロジェクトに貢献する、プロジェクトを健全に発展させる優良な市民たれ」とも及川さんは言います。
「開発が大規模になり、チーム数や構成員が増えれば増えるほどブレる要素は多くなるが、単にブレないように市民に対して圧政を敷くわけではない。各チームに権限を移譲して、各チームが自ら考えるように促し、他のチームでうまい方法があれば模倣する」といった及川さんの言葉からは、自律的に良き文化を市民が自らの手で創り上げていくような印象を私は受けました。
Launch & Iterate
及川さんは、今日のクラウドでの開発の特徴について、よりユーザーの要望に合うという意味で完成度が高いものを作るためには、何が真の要望であるのかを見極めることが大事であると指摘しました。「最初からすべての大きな機能を作ってリリースするのではなく、仮説検証的にリリースし、モニターして確かめていくこと。そしてそれを支える煩雑なテスト工程の自動化と小規模のリリースを繰り返し」だと言います。まさに、Agilityの高さが重要だということです。
「ユーザーにとって使っている製品のバージョンは関係ない」という及川さん言葉は確かにそのとおりで、Google Chromeは現在6週間ごとに安定版が自動更新されますが、そこには「ビックバンリリースを避け、細かいサイクルでソフトウェア製品をデグレードなしでリリースし、ユーザーにとっての価値を提供し続ける」という意図があることを始めて知りました。
これらを実現するために、「自動化」とプロジェクトを健全に発展させ続けようとする「優良な市民であろうとすること」が重要であると及川さんは締めくくり、大きな拍手で基調講演は終了しました。