子どもたちが自ら学び、プレゼンするツール「ロイロノート」を開発
――主力製品である「ロイロノート」は多くの学校で導入され、学習プラットフォームとして活用されています。そもそもどのような経緯で開発されたのですか。
杉山 もともとの発想は、私がゲームメーカーで働いていた時に、「CGの処理技術を映像にも応用すれば、誰でも簡単に映像を編集できるのでは」、と考えたことが起点です。「一億総放送局」というコンセプトで立ち上げたGPUを活用した動画編集ソフトが2007年にIPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択され、それを機に兄とLoiLoを立ち上げました。その後、子どもでも簡単に動画編集できることから、2010年頃に教育ツールへと展開し、現場の先生たちとアイデアを交えながら現在の形へと進化させてきました。
2013年にロイロノートの有償アプリ版を立ち上げたのですが、40人が一斉に作業できるようクラウド型に変え、2014年に「ロイロノート・スクール」をローンチしました。それが現在の主力製品です。現在は1000校以上で利用されていて、クラウド版のDAUは数万人になり、台湾を手始めとして海外にも広がりつつあります。
――「ロイロノート」はEdTechの世界でも特に注目されています。その理由をどのようにお考えですか。そして「ロイロノート」が実現しようとしている「学び」についてお聞かせください。
杉山 学校の授業といえば、「先生が黒板前に立ち、一斉に同じことをする」というものを想像されるのではないでしょうか。退屈で寝ていた人もいれば、学校で適当にやって塾で勉強という人もいたと思います。
そうした一方的に先生の話を聞いて覚えるというスタイルだけじゃなく、自分で考えてそれを表現するというアクティブ・ラーニングの考え方が広がってきています。ロイロノートを使うと、アクティブ・ラーニングの活動を紙や模造紙などを使って表現するより、はるかに簡単で繰り返し行えるため、子どもの自由に考える力や表現する力などが育まれます。こうしたことから、ロイロノートが注目されているのだと思います。
実際、子どもたちのロイロノートの使いっぷりはすばらしいです。自分たちでどんどん調べて、まとめて、発表までやりきる。子どもたちの「知りたい」「やってみたい」という学ぶ意欲が原動力になっているんです。以前、弊社で開催した子ども版TEDのような「子ども授業成果発表会」イベントでは、大人顔負けのプレゼンテーションを見せてくれました。
浦上 実は、私がLoiLoに入社したのも、面接のときに見せてもらったその動画に感動したことが1つのきっかけでもあるんです。
杉山 あの子どもたちの姿には、感動させられるとともに、ロイロノートという製品の可能性に魂が震えました。ロイロノートは、タブレットなどの画面上で、テキストやWebサイト、PDFや動画など、いろんなものをカードとして、感覚的につなげていくことで、学習内容や思考活動をまとめることができるようになっています。そのため、ポートフォリオとして振り返ったりプレゼンテーションとして他の人に思考の流れを伝えたりすることができます。
多様なチームの中にある「未来の学び」に惹かれ、大企業からの転職組も
――実際にLoiLoでは、どのような方々が開発に携わっているのでしょうか。
杉山 プロフィールはさまざまですね。もとは兄と私で立ち上げた会社で、兄は映像系のクリエイター、自分はゲームプログラマーでしたし、最初から教育に興味があったわけではありません。現在は元教員というメンバーも多いですが、技術的な興味関心があった人、近所だったからという人などさまざまです。ロイロノートが注目されるようになって、自分の子どもを含め、次の世代にどんな教育ができるのか、興味を持ってくれた人も増えました。浦上さんもその1人ですよね。
浦上 そうですね。私は2016年の9月に入社したのですが、その前年に子どもが生まれて、改めて自分の人生やキャリアを考えた時、「この子の未来に多少でも影響を残せるものに関わりたい」と強く思うようになりました。子どもの教育に関わり、前職のプログラマーとしての経験も活かせるものとなれば「EdTech分野」だろうと。そう考え、教育に関わるサービスを開発している会社に絞って探していたところLoiLoを見つけました。
学校に直接関わっていること、ソフトウェアの中身などから、自分の希望にあっているのではないかと直感的に感じて面接にうかがいました。
――前職ではどのようなことをされていましたか。
浦上 大手電機メーカーで、カーナビのソフトウェア開発部門に配属されて、CやC++、アセンブリ言語をメインに使っていました。組み込み系ですから技術的には枯れたものを駆使する開発でした。自動運転の実現が近いと言われ、カーナビ自体も既にコモディティ化している中で、将来の可能性が見いだせなくなり、徐々に不安も感じるようになりました。そこに子どもが生まれて、自分を見つめ直すことになりました。
――入社されてどのようなお仕事をなさったのですか。
浦上 入社してすぐはAndroid版のアプリの開発を担当しており、2017年3月より、サーバサイドを触りながらiOS版を開発するようになりました。そしてiOSのリファクタリングが一区切りしたタイミングで、サーバサイドに専属で取り組むことになり、現在に至ります。
――経験のないところからモバイルやサーバサイドの開発を担当されて、キャッチアップが大変だったのではないでしょうか。
浦上 言語が違っても設計の勘所は大きく違うものではないので大丈夫でした。LoiLoは、新しい技術はどんどん検証して使っていこうというスタンスなので、新しい技術を学ぶことは、仕事をする上での大きなモチベーションでもあり、楽しみにもなっています。
前職では、日本の大手企業によくあるように残業が普通で、休日を使って新しいことを勉強しようという気力も体力も残っていなかったのです。
働く中で「学ぶ」楽しみを自然に得られる仕事環境へ
――仕事をする中で、技術的なスキルアップも図れるのはエンジニアにとって理想的ですね。ですが、年々エンジニアが学ばなければならないことが増え、「学び」は多くのエンジニアの課題でもあります。
杉山 そこは意図的に「勤務時間内でも」学んでいけるようにと考えています。「時間外に勉強しろ」という人もいますが、どうも違和感があるんですよね。LoiLoとしては、業務時間内でも時間外でも学びたい人を応援したいので、そういう環境を用意したいと思っています。
浦上 「楽しい」と思える学びこそ大切ですよね。私自身もどちらかというと、学校の授業は退屈で寝ていました。でも、社会人になり、仕事を軸にして役に立つ学びを得る楽しさを知り、特にLoiLoに入社してから、ことさらそのことを強く感じるようになりました。
主体的に学ぶ楽しさを、子ども時代から経験して知っていれば、その後も主体的な学びが続いて、その人の人生にとっても、社会にとってもいいことになるように思います。
杉山 そう、「教育=Educationではなく、学び=Learningが重要」というのは、近年よく言われていることです。子どもたちにもロイロノートというツールを提供すると同時に、自分たちも学びの当事者として実践していければと考えています。
――7月に開催したDevelopers Summit 2018 Summer(デブサミ夏)において、杉山さんは「ロイロノート」をエンジニアの学びのために活用するワークショップを行いましたね。何か気づきなどはありましたか。
杉山 デブサミで聴講したセッションの振り返りを行ったり、これから聴講するセッションに対する「本質的な問い」を考えて、ロイロノート上やTwitterに共有するというワークショップを行いました。あれは本当に楽しかったですね。どの参加者も非常に興味をもってワークショップに参加してくださっているのだと感激しました。
ロイロノートに関するたくさんのフィードバックもいただきました。多かったのは、会社にもロイロノートを導入したいという声。面白かったのは、ロイロノートは子どもだけでなくお年寄りにも向いていそうだというご意見でした。確かに弊社が販売している動画編集ソフトも高齢者の利用が多く、利用目的を聞いたところ動画作品を作っている方がほとんどでした。ビデオカメラなども60代以降に売れているという話も聞いたことがあります。そんなふうに、人間は一生を通して常に学ぶことを楽しめる。そこにロイロノートが貢献できたら、本当に嬉しいことだと思います。
多様性の中で連携して価値を生むホラクラシー的な組織づくり
――新しい価値を創造する上で、学び方と同時に働き方も変わっていくことが求められています。それをダイレクトに実感されているLoiLoでは、どのようなエンジニアの組織づくり、働き方の環境づくりをしたいと考えているのでしょうか。
杉山 私は元々エンジニアで、経営学や「リーダーはこうあるべき」みたいなものを知らないので、逆に会社のあるべき姿をゼロベースで捉えられるのではないかと思っています。
そこで会社組織を、子どもたちの学びと同じように新しい視点で見ると、現在の普通の会社の常識となっているものは既存の一斉授業型の教育ととても似ていると感じます。やれと言われたことをやり、そこで人よりも成果を上げていく。そこで優秀な人が出世し、役員になり、組織をコントロールしていく。いわばヒエラルキー型の組織ですね。
でも、これからは先生も教壇から降りて、子どもたちと同じところでファシリテーションしながら可能性を引き出していくように、多様な価値観や強みをもつ人間がフラットに連携し、主体的に自分の強みを鍛えていく。そんなホラクラシー的で、アクティブ・ラーニング型の企業が価値を高めていくのではないでしょうか。
プロダクト開発を例に取ると、たとえ私がはじめに仕様を書いたとしても、浦上さんが気づいたことが稟議だの決裁だのをなくしてスピーディにアイディアが重ねられていきます。そんなアジャイルでフラットな組織でありたいと考えています。
浦上 確かに、プロダクトに関して「こうしたいんですが」といえば、「あ、いいんじゃない」と言われる確率は高いですね(笑)。先日も指定された画面のUIがどうも腑に落ちなくて、その時は両者譲らず散々議論になりました。その際も誰も「社長だから」と遠慮しないですし、そもそも杉山社長に対する呼び方も「浩二さん」ですし。
杉山 そのような組織の方が、絶対に楽しいですよ。ヒエラルキー型の組織の社長は辛い。すべての決定をしなければならず孤独で、ある意味独善的でなければ務まらないわけですから。
さらに上が強いほど、下の自由度がなくなって「考えない」「学ばない」現場になっていく可能性が高いでしょう。上も辛いし下も辛い。誰も幸せにならない構造になってると思うんです。
「学び」をテーマにして事業を進めていると、さまざまな気づきがあり、組織としての望ましさについて考えさせられます。いろいろ試行錯誤しながら、自社に最適なバランスを見つけるべく、これからも考え続けたいと思っています。
「学びたい」気持ちは全力で応援、とことんエンジニアファーストの環境
――杉山さんの考え方や姿勢について、浦上さんはどう思われますか。そうした考え方が反映された組織になっていると思われますか。
浦上 ええ、かなりフラットでホラクラシー的、アクティブ・ラーニング型だと思います。私もそうですが、入って間もない社歴のメンバーに発言権がある会社ってそうそうないと思うんです。従来の企業から見れば、どうすれば管理しないで主体的にやってもらえるのか、不思議でしょうね。
目に見える部分、例えば会社のハード面にも組織についての考え方が現れていると思います。社長室がなく、部署も分かれておらず、広い部屋で相手を感じながらいつも仕事ができる。椅子は、コンテッサでもSteelCaseでもアーロンチェアでも、みんな自分の座りやすいものを選べますし、机の高さも好みで違うんですよ。パソコンやモニター、キーボードも自分が使いやすいものを選べます。
杉山 人件費の方が圧倒的に高いので、より効果的に働いてもらうには機材への投資なんて安いもんなんです。私はプログラマーなので最適化が好きなんですよ(笑)。開発会社にとって一番の財産は人で、機器や開発ツールの費用なんてたいした割合ではないです。それより使いやすい環境を揃えることで、人が生み出す価値がより大きくなるのなら、その要望に応える方がよいと思うのです。
さらに、書籍の購入も自由ですし、WWDCなどのカンファレンス、有償セミナーも希望すれば行き放題です。「学びたい」という気持ちに制限をしたくないんです。
浦上 さまざまな事情に合わせて働き方を選べるのも、ありがたいですね。うちの場合は、共働きである妻の都合が悪い時などは、私が在宅でリモートワークをすることもあります。また、コワーキングスペースなどで仕事をすることも認められています。時と場合に応じて、フレキシブルに選べるので助かっています。そういうところも含めて「エンジニアファースト」な会社だと感じます。
LoiLoの社風、組織のあり方、開発環境については、杉山さんのブログに詳しく書かれている。
- 自分の子どもに使ってほしい教育アプリを作りませんか?(杉山浩二のScrapbox)
――そのような、フラットでエンジニアファーストな組織の中、どのような人が活躍できると思いますか? 一緒に働くとしたら、どのような人と仕事をしたいでしょうか。
杉山 どんなことにでも楽しみを見つけ出せる人でしょうか。自分で考えて挑戦し、失敗することも楽しい、トライアル・アンド・エラーを楽しめる人もLoiLoに向いていると思います。そして何より、子どもたちの可能性を信じていて、あらゆることから刺激を受けて、勉強しながら価値を作り出していける。そんな人と一緒に仕事ができればと思います。
LoiLoの雰囲気を感じてみませんか?
本記事を読んでLoiLoに興味を持たれた方、LioLoで働いてみたいと思われた方は、ぜひ一度、お話しさせてください。11月7日(水)19:30〜21:00に会社説明会をオンラインで開催します。ご参加お待ちしています!