解説 「バリューストリームマッピング」
今回の解説は、和田塚が担当します。定型的なプロセスにおいて、作業者自身も含め面倒くささから解放されて、効率良く業務に取り組みたいことでしょう。その際、自身のプロセスばかりに関心が向いていると、全体の流れの把握がおろそかになりがちです。
効率化を追求する際、個別最適化も重要ですが、全体最適化の方がもっと大切です。今回は、プロセスにおける情報やモノの流れを見える化して、ボトルネックをカイゼンするプラクティス、「バリューストリームマッピング」を紹介しましょうね。
バリューストリームマッピングとはなんでしょうか?
プロダクトのリリースなど、定型的な作業工程において、情報やモノの全体の流れを見える化するプラクティスです。メンバー全員で共同制作し、全体最適に向けたカイゼンを一気に推し進める活動です。
なぜやるの?
バリューストリームマッピングは、ボトルネックやムダを削減するために実施します。手順書などを未来永劫残すためにドキュメント化するのとは、全く目的が異なります。
価値とは、最終顧客にたどり着いて初めて生まれます。プロセスの途中の滞留や手戻りを発見して価値の流れをスムーズにさせることが目的です。
止まって考え、ムダを発見する
個人のタスクに集中していたり、オペレーションが決まっていたりすると、価値を生み出す仕事ではなく単なる作業に陥りやすいです。自身の作業も含めチームで見直す機会としましょう。メンバーが自分たちで考え、全体最適化の成功体験が今後のチーム成長に大きく生きます。
全体最適に向けた視座を持つ
カイゼンという名の下に自分のプロセスを他人に押し付けるだけでは、全体として何も解消しません。個別の作業だけが最適化ができても全体最適化につながらなければ意味は薄いでしょう。普段、前プロセスと後プロセスを知る機会は少ないため、前後のプロセスが把握できればカイゼンのアイデアを提案するコミュニケーションが発生します。
関係者全員で作り上げる
制作過程においてチームでコミュニケーションし合意形成をしやすくします。リーダーが1人で作成して、出てきたカイゼン案をメンバーに押し付けても、やらされ感ではチーム力は上がりません。短期的な成果だけでなく、長期的なチームのパフォーマンスやモチベーションにも視野を広げておきましょう。
事前準備
以下を準備しておくと良いでしょう。
- カラフルペン
- 付箋紙(数色)
- ホワイトボード
- ドットシール
- タイマー
単語の解説
このプラクティスでは、表記法や用語を押さえておくとスムーズです。聞き慣れない単語を解説しておきましょう。
リードタイム(LT)とプロセスタイム(PT)と待ち時間
まずは、「リードタイム」と「プロセスタイム」「待ち時間」の関係を押さえておきましょう。下記の通りです。作業期間の中に実施待ち時間、作業時間、渡し待ち時間が含まれていますね。作業期間をリードタイム、作業時間をプロセスタイムと呼びます。
- リードタイム(LT):前のプロセスから次のプロセスにバトンタッチされるまでの、担当者が作業を抱えている期間
- プロセスタイム(PT):実際に手を動かしている作業時間
- 待ち時間:リードタイムからプロセスタイムを除いた前後の待ち時間
表記法
下記に示す表記方法を使って制作していきます。
- カテゴリー
- スタートとエンド
- アーキテクチャ
- プロセス名
- 担当者
- プロセスの関連の線
- LT/PT
- 全体LT/PT
- 手戻りマーク
- モヤモヤマーク
- ソリューション案
当日の進め方
初めて実施する場合には、3時間近くかかるでしょう。全体の地図を精緻に描くことではなく、カイゼンすることを強く意識しましょう。
利用しているアーキテクチャをリストアップ
「いきなりバリューストリームマッピングを描こうとすると、頭の整理が追いついてこないです。まず、使っているアーキテクチャを青色の付箋紙にざっくり書き出してみてください」
プロセスの全体像をおおざっぱにリストアップ
「プロセス全体の流れをおおざっぱに洗い出しましょう。黄色の付箋紙に書いて箇条書きに並べていってくださいね」
スタートとエンドを書いてバリューストリームマッピングの記載開始
「ここからが本番ですよ。全プロセスのスタートとエンドを決めて王冠マークをそれぞれ記載しましょう。バリューストリームパッピングの表記を参考にしてください」
プロセスとアーキテクチャ
「手順2で書いたプロセスの付箋紙を時系列に貼り出していきましょう。手順1で書いた付箋紙を活用して関連するアーキテクチャもプロセスの上部に貼り直しましょう。プロセスを思いついたら追加や修正は大歓迎です。正しい表記法にとらわれがちですが、関心事を露出することを良しとしますよ」
担当者名
「プロセスの下に担当者の名前を記載してください。複数名いれば全員の名前ね」
プロセスの関連の線引き
「黄色の付箋紙の間に、同じ担当者なら実線、異なる担当者であれば点線を引きましょう。待ち時間が発生しているかが把握しやすくなるんです」
カテゴリー分け
「プロセスと担当者が出揃いましたね。俯瞰して、フェーズの区切りを見立て、4、5個にカテゴリー分けしてみましょうか」
LT/PTと合計LT/合計PTを記載
「算数しやすいように上下にLTとPTを並べましょう。単位は時間(h)、分(m)、日(d)を使いましょう。全プロセスに書き終わったらカテゴリーごとに合計値を出しましょうね。カテゴリー分けしたことで加算しやすくなったでしょ。最後はカテゴリーも加算して全体の合計LTと合計PTも算出しましょう」
手戻りマーク
「よく手戻りが発生している箇所から手戻り先まで、赤色のペンで線を引いてください。だいたいの発生頻度の割合も書いてください。3回に1回なのか、20回に1回発生するのかくらいの感覚的な数字で良いですよ」
モヤモヤマークでムダやストレスのマーキング
「モヤモヤマークをつけましょう。どこにつけるか悩みますか? LTとPTの差が大きい箇所が待ち時間ですね。大きいところをカイゼンすると効果が高いですね。また、ストレスなところをカイゼンすると楽になるのでオススメです」
問題の優先順位を投票する
「モヤモヤしているところにドット投票しましょう。今回は1人3票ですね」
投票数に数字を記載
「ドット数を数えて、数字を書いてしまってください。投票が集まったところを真っ先にカイゼンすれば、みんなのモチベーションも上がるでしょう。上司を説得する必要はないんですよ。合意事項がここにあるのですから」
ソリューションの決定
「投票数の多いモヤモヤの箇所の解決策を考えてみましょう。同時に書き出してください。このソリューションの愛称をつけると仕事が楽しくなりますよ。今回は”もじゃもじゃ作戦”にしましょうか」
アクションプラン
「いつ、チームでソリューション案を実施しますか? 進捗チェックは朝会で実施しましょうね。”もじゃもじゃ作戦の進捗はどうですか?”と尋ねますね」
貼り出し
「カイゼンの宝庫のバリューストリームマッピングができましたね。みんなの見えるところに貼り出して終わりにしましょう」